久元 祐子 「味」 探訪

上野・湯島・根津

  
「味」探訪(東京)
「味」探訪(神戸)
「味」探訪(その他)
「味」探訪(海外)
名産品

 仲ちゃん(焼き鳥)

国立美術館で「皇室の名宝展」を見て、上野公園を突っ切り、アメ横から御徒町に行く途中の路地でたまたま入った焼き鳥屋さんですが、とても美味しかったです。
「やきとり」と大書されたちょうちんが目印。
こじんまりした店内は、カウンターがメインで、テーブル席が少々。
老舗の焼き鳥屋さんのようですが、店内はとても清潔です。改装後、そんなに時間がたっていないのかもしれません。
それでいて、家庭的な雰囲気です。
「男は黙って焼く」というコンセプトの大将は、黙々と串を焼き、「女は愛嬌」を地でいくおかみさんは、明るく人なつっこい笑顔でお客さんの心をほぐします。
大将は、寡黙なのに、あたたかい雰囲気が伝わる雰囲気の方です。
おかみさんは、「白レバー食べたことなかったら試してみて。入らないことも多いから」と、いろいろ薦めてくれます。
お勧めにしたがって「白レバー」をお願いし、しこしことした味わいを楽しみました。
生わさびが添えてある逸品です。(左の写真)
と、そこへ隣に馴染みさんとおぼしき男性客が来店。
「あら、いらっしゃい」
「おかみさん、白レバー今日はある?」
といきなり第一声。
「あなた、ラッキーよ。これで最後」
「あー良かった」
なんて会話が。
なんでもそのお兄さん、けっこう遠くからこの白レバー目当てにお店に来るのだそうですが、3回続けて白レバーにふられたそうです。
そのほか、「皮の辛子和え」や「煮込み」、正統的な「かしわ正肉」など焼き鳥の基本をきちっと押さえた丁寧なお店でした。
鳥の切り方も上品で、食べやすい大きさです。それでいて、土地柄か、気取らずリーズナブルなお値段も嬉しい限りです。
(2010.1.18 記)
焼き鳥 仲ちゃん  
東京都台東区上野6-8-4 黒川ビル1F

03-3836-2422



 根津の甚八(酒亭)


上野は、学生時代からのなじみ深い場所です。
まじめ学生だった?!私は、根津のほうまで足を伸ばすことがほとんどありませんが、
声楽家の悪友などは、大学より根津の飲み屋にいる時間が長かったような連中もいるほどです。
少し悪さも覚えた卒業うん十年後、私も根津の味わいを知る年頃になりました。

『根津の甚八』は、なかかの有名店ですが、最近、初めてお邪魔しました。
路地を入り、昔ながらの暖簾をくぐり、カウンターと奥の座敷との小さなお店です。
長生きの幸せ猫が出迎えてくれて、見事な毛並みを披露!
きっといいお肴を(いえお魚)を食べているに違いありません。
老舗という格式ばったところがなく、酔っ払いのヘンなおじさんも、理屈っぽいキャリアウーマンも
音楽関係の人も、み〜んな受け入れてしまう、度量の大きさというか、
古くからある長い歴史の中で生まれた余裕が感じられるお店でした。
肩肘を張って伝統を守るわけでもなく、お客さん獲得のためにパフォーマンスに凝るわけでもなく、ごく自然にあたたかくお商売をし、お客さんに喜んでもらえるサービスをしていく、
媚びるでもなく威張るでもない、こういう自然体のお店が残っている下町の良さを感じた一晩でした。
(2008.5.24 記)
根津の甚八  
文京区根津2-26
  日曜休

 季乃下(寿司割烹)


湯島天神から下りる女坂がぶつかる通りのすぐ脇にあります。
湯島天神の正面に向かう通りは、あまり品がよくなくて天神様にも失礼?!という感じですが、この女坂を下りきった通りは、静かで落ち着いた雰囲気が漂います。
「季乃下」は、お店の中から大きなガラス越しに通りを見渡せ、湯島界隈の雰囲気がお店の中にも溶け込んでいます。そして店内もおしゃれで清潔感があふれています。
向かいの「やなかコーヒー」でエスプレッソ用のポッドを買った後、まだ日が落ちていない夕刻、季乃下さんの暖簾ををふらりとくぐりました。段々と日が落ちていく時間は、私が最も好きな時間帯です。しかも辛口の日本酒を傾けながら、美味しいお寿司をつまみ、、、という嬉しいひとときです。
ご主人はとてもソフトであたたかなお人柄。お寿司やさんの中にはネタが良くてもご主人がとてもおっかなく、若い職人さんをどなりつけたりして、客はおそれをなし、ひたすら黙々と食べている・・・というお店もありますが、このお店はそんなお店とは対極にあり、凛とした中にも温かな雰囲気です。
刺身と焼き物、お寿司などのコースもありますが、私は、初めに自家製の卵焼き、そして生のトリ貝、カンパチ、それに車海老をいただきました。穴子の白焼き(1400円)もなかなか美味でした。
お酒はそんなにたくさんの種類はありませんが、冷酒が何種類かおいてあり、カウンターでちびりちびりやるのは最高です。
お寿司をお好みでいただき、暮れなずむ女坂を登って、湯島天神にお参りにでかけました。
五月の素敵な夕刻のひとときとなりました。

(2004.5.7 記)
季 乃 下  
文京区湯島3−32−2  
03−3831−2471


 車 屋

根津の交差点を言問通りに出て、上野方面に歩き、二本めの路地を左に入ってすぐのところにあります。
八百屋さん、魚屋さん、文房具屋さん、と老舗商店街をウォッチングしたあと、ふらりと立ち寄ってみました。
比較的大きなお店ですが、玄関は、写真にありますように、いかにも、根津の路地裏の老舗という感じで、風格十分です。
カウンターと、テーブルが1階にあり、2階には上ったことはありませんが、ゆったりと宴会ができるようになっているようです。
このお店は、何と言っても、お酒の肴のメニューが豊富なことです。
板前さんの背中の壁にずらっと書かれたメニューは、「さあ、さあ、どれから食べるかい?」と誘惑しているかのようにどれも美味しそうな料理ばかりが並びます。胃袋と懐さえ許せば、「ここからここまでお願い!」と壁を指さして注文したくなってしまうのですが、そうもいかず、胃袋と懐具合に合わせて注文した次第。この前お邪魔したときは、アオリイカのお刺身が最高でした。
カウンターの一角には、沢蟹が動き回っている水槽まであります。ちょっとかわいそうですが、唐揚げには最高です。
名物は、左の写真にある、特大の卵焼き。ボリュームがあるのはもちろんですが、ほかほかとしていて、馥郁たる味わいです。
生もの系は、カウンターの向こうでお兄さんが二人でさばき、揚げ物、焼き物系は奥でお姉さんが作ってくれる、というシステムになっているようですが、この卵焼きには、一言、「参りました!!」。
家に帰って、何度か挑戦してみたのですが、「祐子の卵焼きはほんとうまいぜ」と 仲間うちでは、わりと評判のいい私の卵焼きも、この「ふわり」にはまったくかないません。やっぱりプロにはプロの技があるのでしょう。たかが卵焼き、されど卵焼き。。。何事も奥が深い。。。。!
気取らずに友達と二人でゆっくりつもる話をしようじゃないか、という時にぴったりの店だと思っています。おなかいっぱい、心もいっぱい、しゃべりつくしたね。という気分になって、帰路に就くことができます。ひとり3〜4000円くらいあればじゅうぶんです。 (2002.4.25 記)



6月の土曜日の夜、久しぶりにお邪魔しました。
東京文化会館で、ポーランド出身の20世紀の作曲家、タンスマンのリサイタルを聴いた後にお伺いしました。土曜日も遅くまで開いているので安心です。
カウンターの上には、谷中生姜が聳えていました。
そして、名物の卵焼きを注文。9年前の上の写真と比べてみると、お皿が違っているだけで、形、色、そして、手前に添えられた大根おろしもまったく同じです。もちろん、柔らかで幸福感あふれる味わいもまったく同じでした。
鯖の一本鮨で締めました。
雨が独特の風情を醸し出している、根津の裏通りでした。(2011.6.26記)


車屋
東京都文京区根津2−18−2  
03−3821−2901 

 天豊(閉店になりました。)


2005年の夏に行ってみたところ、お店はなくなり、真新しいビルが建っていました。とても残念ですが、記念に以下の文章は残しておきたいと思います。

(2002.2.18 記)
根津方面には、学生時代、大学から言問通りに出て、坂をだらだらと下って歩くと着く、ということは知っていましたが、この辺りを散策するようになったのは、最近のことです。
言問通りと不忍通りが交差する根津交差点のあたりには、何本かの裏通りがあり、雰囲気ありげなお店が目につきます。
この「天豊」は、交差点のすぐ裏手にある居酒屋です。ゆったりとした時間が流れています。
玄関からも古き良き居酒屋の雰囲気が漂ってきますが、店内はなかなかアンティークで、ダイヤル式の黒電話とか、下の写真のような土瓶なども目につきます。いつもクラシックが流れていて、先日は、ヴィヴァルディがかかっていました。
ご主人がひとりで切り回しておられるお店ですが、メニューは比較的豊富です。
鰯料理は、刺身、天麩羅、南蛮漬、つみれなどひととおり用意されていますが、自家製の燻製もなかなかいけます。そのときどきに入るお魚を使い、季節によって違うようですが、はじめていただいた鰰の薫製は、日本酒にとてもよく合いました。ふだんは、秋刀魚の薫製が多いようです。
カウンターには大皿も何皿かおかれています。
無茶飲みをしなければ、ひとり4000円くらいでしょうか。
天豊
東京都文京区根津2−19−8  
03−3823−5590

top へ