変 奏 曲 2 

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Mozart

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クラヴィーアのための9つの変奏曲 ハ長調  KV 264(315d)

【作曲時期】1778年晩夏。パリで。(ウィーンに移り住んでからという説もある。)
【テーマ】ニコラ・ドゼードのオペラ「ジュリー」第2幕のアリエッタ「リゾンは森で眠っていた」
【一口メモ】変奏の手法は、《ランドール変奏曲》とよく似ており、テーマの音型をできるだけ活かしながら、華やかな技巧が駆使されている。第8変奏ではアダージョとなり、長いトリルが奏されている間に、大胆で細かなパッサージュが奏され、その後もさまざまな音型が交替してまるで独立した幻想曲のような雰囲気を醸し出すが、このやり方は、《ランドール変奏曲》で取られたやり方をさらに推し進めたものだろう。第9変奏はグリッサンドも登場するカデンツァを挟み、堂々と曲を終える。立派な変奏曲だとは思うが、やや技巧的側面が全面に出過ぎているような気がして、私は《ランドール変奏曲》の方が遥かに好きである。

クラヴィーアのための12の変奏曲 ハ長調  KV 265(300e)

【作曲時期】1781年か1782年。ウィーンで。
【テーマ】18世紀後半のパリで盛んに歌われていたシャンソン、「ああ、お母さん、聞いて下さい。Ah, vous dirai-je, Maman.」。当時のパリで上演されたオペラで盛んに使われていた。
【一口メモ】初級者向けの曲のように考えられているが、現代のピアノで弾くのはかなり難しい。とくに第8変奏、第9変奏は、両手がともに対位法的な動きをし、第10変奏も、頻繁な両手の交差など技巧的な側面が現れる。アウエルンハンマー嬢に献呈されたが、彼女はピアノの名手であり、モーツァルトは、この変奏曲をそんなに易しいものとは考えてはいなかったのではないだろうか。

クラヴィーアのための12の変奏曲 変ホ長調  KV 353(300f)

【作曲時期】1781年か1782年。ウィーンで。
【テーマ】パリの流行歌「美しいフランソワーズ 、さようなら」
【一口メモ】分散和音、16分音符、三連符による分割、両手の交差など、技巧的にはほかの変奏曲と共通しているが、とにかく全体の音楽の自然な流れという面では、モーツァルトの変奏曲の中で、私には一番優れているように思われる。最後の第12変奏で、テーマが装飾されながら現れ、さらにはっきりと回帰してピアノで曲を閉じるやり方は、とても洒落ているように思う。

クラヴィーアのための8つの変奏曲 ヘ長調  KV 352(374c)

【作曲時期】1781年6月。ウィーンで。
【テーマ】1778年にパリで上演されたアンドレアス・エルネスト・モデスト・グレトリーのオペラ《サムニウム人の結婚》第1幕で歌われる合唱「愛の神」
【一口メモ】オーソドックスな手法でテーマの音型と伴奏形が変化し、第4変奏では、右手が長いトリルを奏で、テーマは左手で三度の重音により奏され、第5変奏はヘ短調でテーマが美しく変化する。第7変奏ではアダージョになるが、ここでは左手の動きが抑制され、しっとりとした味わいが重視されている。この変奏曲は、約3年前に書かれた KV 354と KV 264に比べ、全体的に華やかな技巧は控えめで、弟子のレッスン用に作曲した可能性が強いように思える。私にはこの《グレトリー変奏曲》は、イ長調 KV 331のソナタの第1楽章と共通点が多いように思え、それは、このソナタの作曲時期を暗示しているようにも思える。

クラヴィーアのための6つの変奏曲 ヘ長調  KV 398(416e)

【作曲時期】1783年3月。ウィーンで。
【テーマ】パイジェルロのオペラ「哲学者気取り、または星の占い師たち」の「主よ幸いあれ」
【一口メモ】皇帝ヨーゼフ2世も臨席した1783年3月23日の演奏会で即興したもの。音楽は、テーマが比較的忠実に維持されながら、音楽は華やかに進むが、第4変奏に入ると自由度は一気に高まり、ヘ短調に転じてしみじみとした情感を出した後、アダージョの自由な幻想曲風の展開が行われる。第5変奏では右手のトリルとともに左手でテーマが奏され、やはり自由なパッセージの展開の後、切れ目なく第6変奏に入る。この最終変奏はそれまでの変奏よりもかなり規模が大きい。とても速い分散和音がきめ細かく奏された後、カデンツァが現れ、大胆なパッセージが披露されるが、これはクラヴィーア協奏曲のカデンツァそのものである。フェルマータでトリルが奏された後、テーマの後半部分が回想されて静かに曲を閉じる。この変奏曲は、前の《グレトリー変奏曲》やグルックの主題による変奏曲に比べて規模が小さいが、変奏曲の後半がかなり自由に、また大胆になっていることに特徴があり、これはこの時期モーツァルトが取り組んでいた前奏曲や幻想曲の影響があるのかも知れない。

クラヴィーアのための8つの変奏曲 イ長調  KV 460(454e)

【作曲時期】1784年6月?。ウィーンで。
【テーマ】ジョゼッペ・サルティのオペラ「他人のけんかで得をする」のミンゴーネのアリア「仔羊のごとく」
【一口メモ】主題と2つの変奏からできているモーツァルトの自筆譜が残っているが、1806年にアルタリア社から8つの変奏曲として出版された。新全集は、モーツァルトの純粋の作品ではないとして整理している。私もこの8つの変奏曲を弾いてみて、やはりモーツァルトの作品ではないと思う。一見モーツァルトらしい雰囲気には溢れているが、モーツァルトらしからぬ不自然な進行や濁った響き、第8変奏の左手の耳障りな下降音型などからは、とてもモーツァルト自身の変奏曲とは考えにくい。これは、モーツァルトの作品を綿密に研究した別人による、良くできた偽作であると思う。モーツァルトはサルティに親しい感情を抱いていたようだが、サルティの方は、モーツァルトに敵意を持っていたようで、ハイドンに献呈した弦楽四重奏曲を酷評したことが知られている。

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