久元祐子 記事

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2006年

モーツァルトの世界をより深く 八重山毎日新聞 8月5日(土)
ピアニストの久元 祐子さん

 
今年は、モーツァルト生誕250年。ピアニストの久元 祐子さんは、モーツァルトとその同時代期の作曲家を弾き比べて解説するレクチャーコンサートなど、幅広い活動を行っている。久元さんは「神秘的な部分やいまだに分かっていない部分が魅力」と研究に余念がない。
 「モーツァルト 18世紀ミュージシャンの青春」などの著書もある久元さんは、「その日の自分の体調や考え方、性格まどもさらけ出すことになるので、演奏家にとっては、怖い作曲家」と言う。
 かつてモーツァルトを「行き止まりの音楽」と評し、支持者から批判されたこともある。だが、その真意は「彼の音楽は、ほかの音楽家によって引き継がれるものではありません。彼は独自の音楽世界をつくったのです」と、余人の”干渉”を寄せ付けないその音楽性を高く評価してこその表現だった。
 「楽譜の向こう側に何があるのか、時代の感覚を突き詰めて増えたことを、演奏にフィードバックしたい」。これからも演奏と執筆の両面からモーツァルトの世界を深めていきたいという。
 最近、クラシック音楽に触れる人が増えたことを喜ぶ一方で、「モーツァルトを聴かせると、子供の頭が良くなるとか牛の乳の出が良くなるとかいわれています。でも、ほかの音楽と聴き比べるなど、科学的に実証されているのでしょうか」と、研究家としての疑問を投げ掛ける。
 まだまだ、クラシックの敷居が高いと感じる人も多い。初心者から熱烈な愛好家まで、幅広い音楽ファンと交わってきた久元さんの答えは明快だ。「勉強してからと思わずに、頭を空っぽにして演奏会に来てほしい。音楽は、お蘇我椎人にこそ、潤いになったり明日の活力になったりします。非日常を体験できるのです」

モォツァルトとト広場 魅力凝縮 名曲ずらり 秋田さきがけ 7月13日(木)
26日に秋田市でコンサート ピアノに久元 祐子

 県内外のモーツァルト愛好家でつくる「モォツァルト広場」(加藤明代表)が主催する「第10回サマーコンサート」が26日、秋田市中通のイヤタカで開催される。ピアノには今回が8回目の出演となる久元 祐子を迎える。
 久元は、東京芸大大学院ピアノ科を修了。国内外でのリサイタルをはじめ、アルバム制作、ラジオ番組など多彩な活動を展開。また、熱心なモーツァルト研究家としても知られ、著書に「モーツァルト・18世紀ミュージシャンの青春」「モーツァルト・クラヴィーア音楽探訪」などがある。
 当日は久元のソロ演奏のほか、秋田市出身のクラリネット奏者、森川修一(神奈川県住)、バイオリンに駒越綾(秋田市出身、山形県住)、ビオラには北嶋泰子(秋田市)を交えてのアンサンブルを披露する。
 プログラムは、「ピアノ三重奏曲 変ホ長調 K498」「ピアノとバイオリンのためのソナタ ヘ長調 K377]「キラキラ星変奏曲 K265]ほか。
 加藤代表は、「今年はモーツァルト生誕250年にあたることに加え、10回目のコンサートとなる節目の年。小編成ではあるがモーツァルトの魅力が凝縮された名曲をピックアップした」と話している。
 午後7時開演。チケットは一般3000円、小中高生1000円(全席自由、ドリンク付き)。予約y、問い合わせはイヤタカ(加藤、天野)п@018−835−1381


clese-up Interview series 62 
モイスティーヌ Moisteane 7月号
モーツァルトを演奏する時って、スッピンで人前に出されてしまうようなものなのです。

モーツァルトにはいつも新しい発見が

 演奏だけでなく、著述・論文・エッセイなど文筆活動でも幅広く活躍している久元祐子さんは、モーツァルトの研究者としても知られています。
「ピアニストとして、ピアノの特性を最大限に活かしたショパンやリストも好きですが、モーツァルトは特別。私の初恋の人なんです。子供の頃、最初に聴いたクラシックがモーツァルト。こんなに透き通ったきれいな世界があるんだと子供心に感激して、レコードが擦り切れるまで聴きました。楽譜(の裏)が読めるようになると、美しい、気楽に聴けると思っていた曲の裏側にドラマがあり、不協和音があったり緊張感があったりで驚きました。こんなに少ない音でこれだけ人間が持っている多様な心を表すことができる、その秘密は何なのか、という興味は尽きません。
 彼の音楽が不思議なのは、曲を知らない人が聴いても楽しめるし、何度も聴いたり演奏していても新しい発見があり、見えなかった音が見えてくる新鮮な面白さがある。何度も美味しさが味わえるんです。でも自分自身の成長がないとそれは見えてこない。だから五感に訴える感性を磨いていないとだめなんです。怖いのは、モーツァルトを弾く時はスッピンで人前に出る感じ、ピアノへの姿勢、生活や性格など自分のすべてがさらけ出されてしまうんです」

監督になったつもりで譜面を読む
 「ピアノはハンマーが弦を打って音がでる仕組みになっていて打楽器の要素が強いので、演奏の難しさは速く弾くことではなくて、音をレガート(なめらか)に歌うことなんです。バッハは練習曲集『インペンション』の最初に”カンタービレ(歌うように)で演奏できる奏法を身に付けなさい”と書いていますが、ピアノをただ正確に弾こうとするとタイプライターのようになってしまいます。機械にならないで歌に聞こえるように弾くためには、息つぎ(フレーズ)が大事。どの部分で息つぎするのか、どこにクライマックスを持っていくのかを考えて譜面を見ると、とても楽しくなります。専門家でなくても自分なりにどうやって歌おうかを考えて弾けば、”創造”の作業に変わりますから、楽しくなるし、表現が豊かになります。
 楽譜を読む時に、映画監督になったつもりで、テーマはあの俳優を使おう、展開部は可愛い女性にしようとか、音にいろいろなキャラクターを持たせて組み立ててみる。絵だったらハッキリした色合いや、ふわっとした色合いの音をイメージしたり、ワインの香りなら、ここの音は貴腐ワインの香りのような音にしよう、というようにできます」

演奏は頑張つちゃダメ。カを抜くためのコンニャク体操
 「演奏会の前などに『頑張ってね』とよくいいますが、演奏は頑張っちゃうとダメなんです。いかに力を抜いてピアノに向かうかが大切です。スポーツでも調子のよい選手は肩の力が抜けていますよね。肩に力が入っていると、自分の力が最大限に発揮できません。私はピアノに向かう時、体の中に水が流れていて、腕から指へ、鍵盤へと水が流れ込んでいくように、常に流れている状能をイメージします。例えば腕がホースだとすると、力まなけれぱ水は指から鍵盤に素直に吸い込まれていきますが、途中で力を加えるとホースが硬くなって水の流れが止まってしまいますね。
 力を抜く方法として、大学時代に必須授業だったコンニャク体操というのがあるんです。コンニャクは固体と液体の間みたいでクニャッとしているでしょう。そのように手首から先をコンニャク状能にする、肘から先を、肩から腕を、首も、とブラブラさせていく。要は体が本来持っている自然の力に戻して、自分をコントロールできる状能にすることなのです。ピアノを習っている方も上手になろうと力んで頑張りますが、逆に力を抜くことを覚えるとグッと上達します」

音楽は、いろいろな楽しみ方があつてもいい
 久元さんはいろいろなスタイルの演奏会を行っていますが、特に10年以上続けているレクチャーコンサートは注目を集めています。
 「もちろん普通のコンサート形式が-番多く、それはそれで緊張感があって好きですが、それだけではなく、もって多様性があってもいいのではないか。例えばムソルグスキーの「展覧会の絵」なら、この曲のインスピレーションの元になったといわれる絵と一緒に鑑賞したり、チャイコフスキーの「四季」は月刊誌の付録として作られた曲で、その時一緒に載っていた詩があるのでそれを朗読したりと、音楽以外の芸術も一緒にステージに乗せて楽しんでいただこうというコンサートのスタイル。
 レクチャーコンサートは、主にモーツァルトとその時代に生きた作曲家を取り上げて、お話を交えながら聴いていただくコンサートです。モーツァルトと同時代にも星の数ほどたくさんの作曲家がいましたが、淘汰されて、現在まで残っているのがモーツァルトです。彼らの音楽と聴き比べることによって、モーツァルトの比類のない魅力が見えてくると思うんです。それと、よく知った曲を繰り返し聴くのも楽しいですが、全然知らなかった曲にも触れていただいて知るキッカケになれば、という思いもあります。”こんな料理ですが食べてみてください”と演奏したら、今まで食べたことなかったけど、食べてみたら美味しかった、”食わず嫌いだった”という感想を持っていただければうれしいですね」

息づかいが感じられる、潤いのある演奏がしたい
 優しい眼差し、深くソフトな声で初恋の人モーツァルトへの思いを込めて話される久元さん。決して誇張やひけらかしはなく、自然体で音楽への真摯な姿勢と深い愛情をキラッと輝く言葉で紡ぎだしてくださる時間は心地よく、それは久元さんの演奏を聴いた時も同じ印象です。
 「人の心(感情)は時代が変わってもそんなに変わらないと思います。そうした心のヒダを表現して成功した音楽がクラシックとして残つていく。そういう作品を後世に伝えていくことも演奏家としての使命だと思います」
 現代のように心がカサカサした世の中には潤いが必要、ともおっしゃいます。
 「息づかいが感じられる潤いのある演奏をしたいと常に心がけています。人ヘの思いやり、愛情、夢、情熱・・・そして私が感動したことを、音楽を通じて聴いてくださる方々と共有できれば幸せです」
(取材協力:セレモアコンサートホール武蔵野)


「才媛ピアニスト、モーツァルトを読み解く」 チケットクラシック 6月号

このシリーズは、モーツァルト・ファンには見逃せない催しとなることだろう。
久元 祐子 モーツァルト・ピアノ講座 第1〜第4回
会場 : かつしかシンフォニーヒルズ/アイリスホール
文/加藤浩子 ○音楽評論家

 ピアニストには知性派が多い、とよく言われる。とくに文章の才にめぐまれたひとが、ピアニストには少なくないのではないだろうか。本を書く演奏家はあまたいるが、その才能が公に評価されている点では、ピアニストはかなり突出している。『チャイコフスキー・コンクール』で大宅賞を受賞した中村紘子しかり、『翼のはえた指―評伝安川加寿子』で吉田秀和賞、『青柳瑞穂の生涯』で日本エッセイ賞を受賞した青柳いづみこしかり。
 最近では、この系列に、久元 祐子を加えてもいいかもしれない。東京芸術大学に学び、松浦豊明氏らに師事した久元 祐子はは、演奏活動だけに飽きたらず、数々の著作を通じてその知的好奇心を探求、『現代は夢の病理とどう向き合うのか』などの著作で毎日21世紀賞を受賞した、若手ピアニストきっての知性派だ。
 とはいえ、久元 祐子の演奏が、硬いというわけではまったくない。彼女の演奏には、明晰さと心地よさが同居している。ピアノに向かう姿勢は真摯で、作曲家に対する敬意にあふれているが、だからといって肩肘の張ったところはなく、自然で暖かで、親密な空気が漂っている。さりげなくも深い音楽への愛が伝わってくる。バランスのとれた、好感の持てる演奏である。
 今回、かつしかシンフォニーヒルズでは、生誕250年を迎えたモーツァルトをテーマに、久元 祐子を迎えてレクチャー・コンサートを開催する。モーツァルトの演奏は、彼女のライフワーク。「モーツァルトのピアノ作品からは、モーツァルトの肉声が聞こえてくる」という久元 祐子は、「モーツァルトが理想としていた演奏に少しでも近づきたい」という思いから、モーツァルトの弾いた楽器、演奏法、自筆譜や出版譜、時代の雰囲気、受容史など、多方面からモーツァルトにアプローチしている。その成果は、『モーツァルトはどう弾いたか』(丸善出版)という著書にもまとめられているし、また、モーツァルトの青年時代について詳しく述べた興味深いエッセイ『モーツァルト 18世紀ミュージシャンの青春』(知玄舎)も上梓している。
 膨大な知識に裏づけされていながら、読みやすくまた雰囲気のある文章、加えて、さまざまなピアノ作品の注釈と、きわめて充実した1冊である。そんなバックボーンを持つ久元 祐子が、モーツァルトの生涯を4回にわたって紹介するこのシリーズは、モーツァルト・ファンには見逃せない催しとなることだろう。

「モーツァルトは新らしもの好きの努力家」 いきいき 2月号
ピアノ演奏とお話を交えて、モーツァルトの「レクチャー・リサイタル」を、10年以上続けているピアニストの久元 祐子さんは、モーツァルトの曲を弾いていると、作曲当時のモーツァルトの思いが伝わってくるようだとおっしゃいます。
 モーツァルトの曲を弾くと、天衣無縫の天才というよりも、同時代の音楽家を絶えず観察し、研究し、よいもの
を吸収しようとしつづけた、意欲的な若い音楽家像が思い浮かんできます。大バッハ(ヨハン・セバスティアン・バッハ)の息子、クリスティアンの作品を熱心に分析したり、新しい鍵盤楽器ができたと聞くと、「試し弾き」をしに、わざわざ楽器工房を訪ねたり。当時は、鍵盤楽器が大きな変化を遂げた時期で、モーツァルトは、新しい楽器が出ると、すぐに飛びついて、その楽器の特徴を自分の曲に取り入れていきました。ですから、モーツァルトのピアノ協奏曲は、初期と後期ではかなり音の扱いかたが違っているんですよ。もしもいまの時代に生きていたら、きっとと電子楽器やコンピュータによる作曲などもしていたのではないかと思います。
 私は、ピアニストですから、いまのピアノという楽器のよさを最大限に引き出してくれるショパンやリストも好きでよく弾きますけれども、最後にあと一曲しか弾けないとして何を選ぶかと言われたら、やっぱりモーツァルトを選ぶでしょう。

2005年

久元 祐子が送るリストの芸術世界  山形新聞など
モーツァルトの演奏や著作で知られる中堅ピアニストの久元 祐子が、リスト作品のCD[巡礼の年・第2年『イタリア』」を出した。6枚目のCDとなるが、初めてリストだけに挑んだ。
『巡礼の ― 』はリストが1837年のイタリア旅行で出会う美術や文学に触発された作品群で、ラファエロの絵画「マリアの結婚」に想を得た『婚礼』、ペトラルカの「抒情詩集」に由来する『ソネット』3曲、そしてダンテの詩編「神曲」の冥界(めいかい)を描いた名曲『ダンテを読んで』など全7曲。ほかに1曲を収めた。
久元は高度な演奏技術のみならず、持ち味の知的な構成力で作品全体をとらえ、リストの芸術世界を提示。「リストというとビルトゥーゾ的な面が強調されるが、まとめて弾いてみると、音楽のほか文学など他の芸術への広がり、エネルギーを改めて感じることができる」と手応えを話した。(Bishop Records EXAC002)

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