「クローエに」

今週末のレクチャーコンサートの準備に入りました。
今回は、青春期のピアノ・ソナタと晩年の歌曲。
ソプラノの山崎法子さんとの共演、とても楽しみにしているところです。

晩年のモーツァルトが作曲した歌曲「クローエに」KV524。
昨年、白井光子先生の公開レッスンで、取り上げられた曲です。

山崎さんは、ウィーンの先生に
「この曲はとってもHなのよ」
と教えられたそうですが、
「ふるえながら君を胸にいだく」
「きみの膝にもたれかかる」
「ぐったりと、だが恍惚と」
と官能的な歌詞が、早鳴りする胸の鼓動のようなテンポに乗って歌われます。

燃える思いや心臓の高鳴り、血潮の動きなど、恋を音に託して歌い上げます。
モーツァルトは歌詞の4節までを音楽にしていますが、原詩は13節まである長い詩です。
恋の始まりから愛を誓う喜びの絶頂、クライマックスを経て、雲行きが怪しくなり、10番では
「ひそかな裏切りを恐れながらおののく」
最後の節は、
「金の指輪がこわれたとき信頼は崩れ去った、愛を裏切った者にはどこまでもみじめな地獄がつきまとった」
というラストです。

ハッピーエンドではなく、暗い結末の詩の中で、最初の沸き立つような恋の始まりの4節のみを音楽にしたモーツァルト。13節まで音楽にしていたら、どんな音楽をつけたのだろう・・・とこの曲を弾くたび、思います。
余韻を残してこれから・・・・というところで音楽を閉じているところがみそでしょう。

このほか、「すみれ」「ルイーゼが不実な恋人の手紙を焼いたとき」「夕べの想い」「春への憧れ」など
たった2ページのオペラと言っても過言ではない、素晴らしいモーツァルトの歌曲です。
スケール、アルペジオ、装飾音、、、、これら練習曲の定番になっているようなシンプルな音型の連続ですが、おたまじゃくしでなく、その向こうの息遣いや高揚した気持ち、チャーミングなしぐさなどが見えてくるようなアプローチで臨みたいと思っています。

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