「ピアノ名曲による花束」

  Yuko HISAMOTO  CD
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久元祐子 「ピアノ名曲による花束」 (2005/10/21)  

「ピアノ名曲による花束」
2005/10/21
Pro Arte Musicae PAMP - 1026
定価  2800円

録音 2005年5月24日〜25日
田園ホール エローラ

piano : Boesendorfer model 290

・J・S・バッハ:平均律クラヴィーア曲集 第1巻 第1番 ハ長調から プレリュード
・ベートーヴェン:「エリーゼのために」
・モーツァルト:幻想曲 ニ短調 KV397
・モーツァルト:ピアノ・ソナタ イ長調 KV331 から「トルコ行進曲」
・ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 嬰ハ短調 作品27の2 「月光」から 第1楽章
・ショパン:幻想即興曲 嬰ハ短調 作品66
・シューベルト :ワルツ D973- 2「別れのワルツ」
・シューベルト:クッペルヴィーザーワルツ(R・シュトラウス編曲) 
・サティ    :「おまえが欲しい」      
・シューマン:「子供の情景」から「トロイメライ」
・チャイコフスキー:「四季」から  「10月 〜秋の歌〜」
・ブラームス :3つの間奏曲  作品117 から 第1曲
・ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ ハ短調 作品13「悲愴」から 第2楽章
・リスト  :「愛の夢」 
・ショパン:ノクターン 変ホ長調 作品9の2
・ブラームス:ワルツ 変イ長調 作品39の15
・ショパン :ワルツ 変ニ長調 作品64の1 「小犬のワルツ」
・ドビュッシー :「ベルガマスク組曲」から「月の光」
・グリーク :「抒情小曲集」から「アリエッタ」

ピアノ:久元 祐子      
Producer : Tomoko Tsuji (Andante Favori)  Director : Genroh Hara (Pro Arte Musicae)
Sound Engineer & Editor : Yuji Miyashita   Piano Tuner : Kohki Mizushima
Original Cover Photo : Toshiaki Kohno     Photo : Hideko Ishiguro
Art Editor : Akiyo Yasunaga (Pro Arte Musicae)   Album Design : Soken Co. Ltd.




<プログラム・ノート>    久元 祐子
一度は耳にしたことがあるような名曲を中心に、心にしみるピアノの名曲を集めて弾いてみたい―そんな動機でこのアルバムを編んでみました。プログラミングは、プロデューサー(アンダンテ・ファヴォリ)の辻智子さんと相談して決めました。ピアノ名曲アルバムのようなCDは、たくさん出されていますが、このアルバムで私たちなりに何か違うことをしたいとか、何か差異を刻みたいとか、そのような気持ちはいささかも持ち合わせてはいません。音楽の流れの中で、何かしみじみとしたものを感じていただければそれで十分です。
 大バッハ「プレリュード」、そして、ベートーヴェン「エリーゼのために」は、子供の頃からずっと弾き続けてきました。この2曲は、いつ弾いても、ピアノと遊んでいた子供の私を、ごく一瞬彷彿とさせてくれます。私は、子供の頃も、学生の時も、演奏活動に入ってからも、この2曲にはいつも全力投球でした。「エリーゼのために」は、ベートーヴェンのCDを出したときに最後に入れました。どなたかがこのCDのプログラミングのことを、「まるでリサイタルのよう」と評してくださいましたが、このときは確かにアンコールのつもりで弾きました。今回のアルバムでは2曲目で弾いていますので、聴き比べていただれば幸いです。
 ベートーヴェンの「悲愴」「月光」の両ピアノ・ソナタは、どちらも定例のリサイタルで弾いたことがあります。悲愴ソナタは最終楽章に重心があるような気がしますが、このアルバムではよく知られている第2楽章を入れました。月光ソナタの第1楽章もそうですが、独立した魅力を湛えているすばらしい音楽だと思います。
 モーツァルトについては、これまで3冊の小著を著し、このアルバムに入れた2曲についても、とくに「モーツァルトはどう弾いたか」(丸善出版)の中で私なりの想像を自由に巡らせています。ニ短調の幻想曲は今年(2005年)のリサイタルで取り上げる予定で、モーツァルトの筆が中断した後にはフーガが続くと想像して中村初穂さんに補作をお願いしてみましたが、このアルバムでは、よく弾かれる定番の短い補作を使っています。この補作はモーツァルトの死後、19世紀はじめにつくられたものです。
 トルコ行進曲を弾くと、いつもわくわくします。わくわくするからかもしれませんが、弾くたびにかなり違った演奏になってしまい、ときには反省したりもするのですが、それもこの曲の魅力のなせるわざかもしれません。「後宮からの誘拐」の中でトルコの太守を頌えるいきいきとしたコーラスを思い浮かべながら、いつもこの曲を弾いています。
 シューベルトはピアノ弾きにとってはなかなかとっつきにくい作曲家です。職業的ピアニストではなかったということも影響しているのかもしれませんが、彼のピアノ曲は、ピアノ音楽がふつう持っている常識や流れにかなっていないように思われます。それ以上に、シューベルトの音楽には、かなり特異な心情が宿っています。ワルツのような小品でもそうですが、親しげでいながら、近寄りがたいのです。
 「別れのワルツ」と呼ばれるワルツは、いつも私のリサイタルを聴きに来てくださる科学ジャーナリストの方からのリクエストによるものです。かなりの「通」でいらっしゃいますので、この演奏で許していただけるだろうかはなはだ心許ないのですが・・・。後期ロマン派の大家R・シュトラウスの編曲による「クッペルヴィーザーワルツ」は、「ノスタルジア」と題した2年前のアルバムに入れたのですが、どうしてももう一度弾いてみたいと思いました。スコアに描かれている仲間たちとの楽しいゲームの模様を眺め、イメージをつくりなおしてみました。
 シューマン「子供の情景」から「トロイメライ」リスト「愛の夢」もサロン・コンサートなどで弾きこんだ曲です。それにしても、ほぼ同じ頃生まれ、互いの才能を認め合っていた、メンデルスゾーン、シューマン、リスト、ショパンの感性はどうしてこうも違っているのでしょう。「トロイメライ」の細やかに入り組んだ憧れと、「愛の夢」の恍惚と力強さはほんとうに遠く隔たっています。
 ショパンの作品は、初めて出したCDに、葬送ソナタ、幻想曲、舟歌などを取り上げたことがあります(1999年、コジマ録音)。今回は、いずれもあまりにも有名な、作品9の2のノクターン「小犬のワルツ」幻想即興曲を取り上げました。幻想即興曲はこれまでほとんど弾いたことがありませんでしたが、やはりすてきな曲ですね。
 チャイコフスキーピアノ曲集「四季」は、作曲者の繊細な感性が感じられる12曲からできています。中でも「10月 〜秋の歌〜」は、もっとも好きな曲です。この曲の冒頭には、ロシアの詩人アレクセイ・トルストイ(文豪のトルストイとは別人)による次の詩が掲げられています。「秋、あわれにも私たちの庭はすさみ果て黄色に染まった木の葉は 風に舞い落ちる ただ遠く美しく見えるのは、あの谷の底の鮮やかな赤い房 しぼみつつある ナナカマドよ 私の心は楽しくも悲しい 黙っておまえの手をとってあたため、握ってみる おまえの姿が目に映ると、黙って涙が流れる 私がおまえをどんなに愛しているか、それは言い表せないほどだ」(訳は三浦洋氏)
 ブラームス「3つの間奏曲 作品117」は、大学院の頃に知った曲です。演奏活動を始めた頃によく弾いていましたが、正直言って最近ようやくこの曲の味わい深さがわかりかけてきたような気がします。ブラームス後期の独特の淡い色合いはどう出していくのか、試行錯誤はこれからも続くことでしょう。併せて有名な変イ長調作品39の15のワルツを弾きました。
 あと、サティ「おまえが欲しい」ドビュッシー「ベルガマスク組曲」から「月の光」グリーク「抒情小曲集」から「アリエッタ」で曲集を閉じます。

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