クラヴィーア・ソナタ 1 

Sonata
Variation

Mozart

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クラヴィーア・ソナタ 第1番 ハ長調  KV 279(189f)

1.Allegro ハ長調 (ソナタ形式) 2.Andante ヘ長調 (ソナタ形式) 3.Allegro ハ長調 (ソナタ形式)
【作曲時期】1775年1月14日から3月6日の間
【一口メモ】第1楽章冒頭のテーマは、いきなりアルペジオが鳴らされて16分音符の左手が呼応し、直ちに右手で16分音符の細かい動きが連なる。確かに、このぎこちない動きから、晩年の変ロ長調K570、 KV 576冒頭の簡素なユニゾンのテーマへの距離は大きいだろう。しかしその一方で、冒頭の音型から次の音型への自然な場面の転換、半音階を含んだ滑らかな動きなど、いかにもモーツァルトらしい香りも立ち上っている。
第2楽章は、3連符の伴奏の上にテーマが奏され、既にモーツァルトの美しい「歌」に仕上がっている。第3楽章は、おおらかであると同時に動きのある、モーツァルト特有の軽やかさが溢れ、第1、第2楽章よりも完成度が高いように思える。

クラヴィーア・ソナタ 第2番 ヘ長調  KV 280(189c) 

1.Allegro assai ヘ長調 (ソナタ形式) 2.Adagio ヘ短調 (ソナタ形式) 3.Presto ヘ長調 (ソナタ形式) 
【作曲時期】1775年1月14日から3月6日の間
【一口メモ】このソナタは、同じ調のハイドンのソナタHob.]Y ― 23がモデルになったことは間違いないだろう。どちらもヘ長調で、全体の構成もよく似ている。とりわけ第2楽章は、同じヘ短調、8分の6拍子、テンポはアダージョ、そしてテーマもよく似ており、どちらも一種の悲しみをたたえた美しいシチリアーノ風の旋律である。しかし、この表面的な類似にもかかわらず、両者はかなり異なる音楽だと考えられ、両者間の考察はモーツァルトとハイドンの音楽の性格の違いに結びつくかもしれない。(この点については、 小著 「モーツァルトのピアノ音楽研究」、p149 以下。)第3楽章は、打って変わって歯切れ良く、実に小気味の良い音楽。

クラヴィーア・ソナタ 第3番 変ロ長調  KV 281(189e)

1.Allegro 変ロ長調 (ソナタ形式) 2.Andante amoroso 変ホ長調 (ソナタ形式) 3.Allegro 変ロ長調 (変形されたロンド形式) 
【作曲時期】1775年1月14日から3月6日の間
【一口メモ】このソナタは、全楽章にわたってむしろ KV 280よりもハイドンの影響が強い。第1楽章のテーマはいきなりトリルで始まり、3連符の速いパッセージがこれに続く。すぐに左手は4分休符、右手は8分休符で切断され、おそらくはフォルテでアルペジオの和音が二つ鳴らされるが、この効果は間違いなく驚きを狙っていて、ハイドンが愛用した手法である。
第2楽章は、アンダンテ・アモローソ(愛情を持って)という変わった指示だが、テーマは提示力という点であまり効果を挙げていない。全体として構築的に書かれているというよりは、旋律を細かく修飾したり、変化させたりといった手法で、軽い、いわばギャラントな趣味が楽章全体を覆っている。第3楽章はとても生き生きとしたロンドで、3つの楽章の中で最もモーツァルトらしさに現れている。

クラヴィーア・ソナタ 第4番 変ホ長調  KV 282(189g)

1.Adagio 変ホ長調 (ソナタ形式) 2.Menuetto 変ロ長調 (複合三部形式) 3.Allegro変ホ長調 (ソナタ形式) 
【作曲時期】1775年1月14日から3月6日の間
【一口メモ】アダージョの第1楽章は素晴らしい。序奏風に第1主題が現れ、16分音符の伴奏の上に、頻繁に装飾され、トリルが多用された旋律が歌われる。第2主題はやはり細かな動きが主体だが、単に音の動きを楽しんでいるのではない味わいがある。第2楽章は二つの部分からなるメヌエット。自然な音楽の流れの中で、明るく典雅な気分が次々に変化していく。終楽章は、スタッカートと符点音符が組合わさった音型が1オクターブ跳躍する、歯切れのいいテーマで始まる。恐らくはかなり速いアレグロで、かなり軽快なテンポで弾かれることが想定されてように思う。

クラヴィーア・ソナタ 第5番 ト長調  KV 283(189h)

1.Allegro  ト長調 (ソナタ形式) 2.Andante ハ長調 (ソナタ形式) 3.Presto ト長調 (ソナタ形式) 
【作曲時期】1775年1月14日から3月6日の間
【一口メモ】全体にわたってモーツァルトらしい優雅で繊細、ときには得も言われぬ迫力を秘めた美しさに溢れている名曲。4分の3拍子のメヌエットの雰囲気を持つ第1楽章では、シンフォニックな書法は蔭を潜め、ピアノフォルテの性能を駆使した繊細なピアニズムが縦横に発現されているように思う。ヨハン・クリスティアン・バッハの同じ調の作品5の3のソナタからの影響が強いように思う。
モーツァルトのアンダンテはその多くが決してゆっくりではなく、ある程度の速さで弾かれることが想定されているが、この第2楽章もその典型。第3楽章ではそこかしこにハイドンが好んだ伴奏音型が現れる。同じ音型をピアノとフォルテで鋭く対比して繰り返し、音楽に力強い推進力をつけていくやり方は明らかにハイドン的である。

クラヴィーア・ソナタ 第6番 ニ長調  KV 284(205b)

1.Allegro ニ長調 (ソナタ形式) 2.Rondeau en Polonaise (Andante) イ長調 (変形されたロンド形式)
3.Thema con dodieci variazioni ニ長調 (変奏曲)
【作曲時期】1775年1月14日から3月6日の間
【初版(生前)】1784年 トリチェッラ社から
【一口メモ】ミュンヘンの貴族で軍人であったデュルニッツ男爵のために作曲されたため、《デュルニッツ・ソナタ》と呼ばれることがある。このソナタは、6曲のソナタのみならずモーツァルトの全ソナタの中でも最も規模が大きく、また、とても高度な演奏上のテクニックが要求される曲である。また、かなり分厚い書法で書かれていて、シンフォニックな響きが使われている点も、ほかの5曲と大きく異なっている。とりわけ第1楽章は、交響曲の編曲かとも思えるほどシンフォニックに書かれている。
第3楽章は規模の大きい変奏曲で、特に第11変奏は、33小節にも及ぶアダージョ・カンタービレで、細かなパッセージが即興的な雰囲気を持って何回も繰り返される。6曲中、このソナタだけがモーツァルトの生前に出版されている。

クラヴィーア・ソナタ 2