コンサート批評 (2018)

  Yuko HISAMOTO  Concert

コンサート批評
2019年
2018年
2017年
2016年
2012年
2011年
2010年
2008年
2007年
2006年
2005年
2004年
アンケート
2003年
2002年
CD批評
2018年
2015年
2011年
2009年
2007年
2005年
2004年
2003年
2000年
1999年

久元祐子 モーツァルト・ソナタ全曲演奏会 vol.4
(2018.9.22 サントリーホール・ブルーローズ)

Classic Review 2018年10月号
 「やっぱりモーツァルトはいいね」という声が聞こえそうだ。近年モーツァルトのピアノ独奏曲だけでプログラムを組むリサイタルは少なくなったように思う。それはモーツァルトが飽きられたとか、リサイタルに適さないということではなく、むしろ難しいからではなかろうか。そこに楽器の問題が絡んでいる。この日はベーゼンドルファーの最新鋭のコンサート・グランドが使われた。。これでモーツァルトを弾くのは、当時の楽器(オリジナル楽器)で演奏することが増えた最近の傾向とは逆行するものと受け取られるかもしれない。筆者もそんな先入観を持っていた。プログラム前半は現代の楽器で18世紀のモーツァルトの音、魅力を引き出そうとしているように感じた。一つ一つの音を明瞭に、音量は控えめに、ペダルも抑え気味に。モダン・ピアノの音の美しさを使って、モーツァルトの時代様式に合わせようとしているような演奏だった。ここに少しのアンバランスを感じた。もし、久元がオリジナル楽器で演奏していたら、こんな遠慮(配慮?)はせず、むしろガンガン叩きまくったのではなかろうかとすら思った。ところが、後半は、むしろ現代に光り輝くモーツァルトだった。「私はランドール」の主題の歌い方はオペラのアリアそのものを聴いているようだった。「ソナタ イ短調」もそうだったが、音量も響きも豊かで、さすがベーゼンドルファーから出る音楽だと聴き惚れ、感心した。現代でも生き生きとしているモーツァルトはやっぱりいいねと思った。(石多正男)
ピアノの本 No.261
久元祐子さんがベーゼンドルファーモデル28OVCで
モーツアルトの心情を生き生きと描出

 深い知性と探究心、繊細かつダイナミックな感性に裏打ちされた音楽性が高く評価されている久元祐子さん。2016年1月からライフ・ワークとも言えるモーツァルトのピアノ・ソナタ全曲演奏会に取り組み、毎回ソナタ以外の作品も織り混ぜながら、作曲家の魅力にさまざまな角度から迫っています。
 9月22日、サントリーホール・ブルーローズで開催された第4回の演奏会では、モーツァルトが青春の旅路の中で作曲したソナタ、KV311とKV310を中心に、《アリエッ夕「リゾンは眠っていた」による9つの変奏曲》、《「私はランドール」による12の変奏曲》をそれぞれのソナタの前に配し、20歳前後のモーツァルトの心情を生き生きと描き出しました。
 マンハイム、パリヘの旅で、母の死など、悲しみや挫折を味わいながらも、新鮮な音楽的剌激を受けて大きく成長したモーツァルト。久元さんはベーゼンドルファーモデル28OVCから輝きに満ちた音色を引き出し、洗練された遊び心にあふれる魅力的な変奏曲、明るく優雅なKV311のソナタを奏で、モーツァルトの青春の息吹きを感じさせました。プログラム最後のKV310のソナタでは、絶望と祈りが交錯する曲想を、28OVCの深く豊かな響きで表現し、客席を感動で包みました。
 アンコールはドビュッシー《月の光》、そしてグリーグ《抒情小曲集より「アリエッタ」》。ピアノの音色を慈しむような演奏で、リサイタルをしめくくりました。(森岡 葉)
CHOPIN
若きモーツァルトの趣向を汲みあげた秀逸な表現
取材・文◎菅野泰彦(音楽評論)
マンハイム、パリ旅行時の4作を繊細な配慮のある表現で印象づけた。2曲の変奏曲、K264での変化に富む多様な表情、K354では個々の変奏の趣向や特徴をみごとにとらえ、2曲のソナタ、K311では管弦楽の対話のよう、流麗で生命カが横溢し、K310は劇的で深い情緒を漂わせた。このシリーズはべーゼンドルファーでの演奏で、前回同様、新しいコンサートグランド「28OVC」を使用、すっきりとした音像で弾き手の多様で繊細な表現に精細に即応している感があったが、この楽器を久元は存分に駆使し、生き生きとしたモーツァルトを聴かせた。終演後の久元へのインタビューより
「モーツァルト時代のフォルテピアノは、現代のグランドピアノのような金属のフレームがありません。弦の張カも今に比べれば弱く、木芯に皮が巻かれているだけの小さなハンマーで軽やかに跳ね上げるウィーン式アクションです。現代のピアノで演奏するときにもその繊細さ、軽やかさ、透明感を体現したいと思っています。ウィーンの老舗べーゼンドルファーは、樹齢90年の木を5年間かけてゆっくりと自然乾燥させ長い歳月をかけてピアノを作ります。木のぬくもりや温かな息遣い、歌うような音色が特徴です。モデル28OVC は、そのようなウィーンナー・トーンの伝統の上に、音の立ち上がりの良さを実現させた新時代のベーゼンドルファー。モーツァルト青春時代の作品がもつはじけるようなエネルギーや輝きに満ちた表現にも応えてくれました」

コンサート批評 2017 へ