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2011年 演奏論A

T
 次の文章は、"The Compleat Mozart: A Guide to the Musical Works of Wolfgang Amadeus Mozart" edited by Neal Zaslow with William Cowderyの一部である。この文章を読み、以下の問に答えなさい。
After stretching out his Munich stay aslong as he dared, Mozart returned to( 1 ), where he remained for two and a half more years providing music for (a)Archbishop Colloredo and his court. Inevitably, though, he realized that ( 1 ) held no future for him. It was time to go job hunting and, with his mother along as combined chaperone and cashier, he departed on September 23, 1777, on a fateful journey to ( 2 ) that was to hold bitter disappointments.
(参考) chaperone:お目付役
This trip, to Munich, Augsburg,( 3 ), ( 2 ), and back to ( 1 ), lasted more than a year and produced three piano sonatas (K. 309, 311, and 310).

K. 310 Piano Sonata in A minor, No. 8 (K6 300d)
Origin: ( 2 ), between March 23 and July 20,1778
Movements: Allegro maestoso. (b) Andante cantabile con espressione. Presto.

Compositions in minor keys are rare in Mozart's works: only two each among the piano sonatas, concertos, and symphonies, just one each among the mature string quintets, quartets, and violin sonatas―barely a dozen pieces out of scores of instrumental compositions. This sonata is one such work. It moves us ahead to( 2 ), where Mozart arrived toward the end of March 1778 for a six-month stay.
While in ( 2 ) (no one knows just when)he composed the A-minor Sonata and acompanion work, the Violin Sonata in Eminor, K. 304. Among the several explanations that have been suggested, the most prevalent perhaps is that the death of Mozart's mother on July 3, 1778, after a short, unforeseen illness, gave rise to a deep sense of loss that is reflected in these sonatas. Or perhaps it was the enforced absence from Aloysia Weber, the young ( 3 ) soprano with whom he had recently fallen in love, that drove him toward a more turbulent minor-keyed creativity.
This A-minor work ushers into the sonatas a vibrant emotional intensity. (c) The Allegro, despite its qualifier "maestoso"(stately), has a persistent querulousness, a mood, compounded of angular melody, repeated left-hand chords, and dotted rhythms, that will not be placated. Also in sonata form, the Andante, marked "cantabile con espressione," offers solace in its spacious opening melody, but the development casts a long shadow that obscures the consolation promised at the beginning.
(参考) querulousness:愚痴っぽいこと。 placate:慰める
Once its dotted-rhythm refrain starts, the concluding Presto, again in the minor, moves like a wraith spinning about without ever coming to rest. "It is a most personal expression," writes Alfred Einstein. (d)"One may look in vain in all the works of other composers of the period for anything similar."
(参考) wraith:亡霊

1)(1)(2)(3)には、それぞれ同じ番号について同一の都市の名前が入る。下の@からDから選びなさい。

(1) (    ) (2) (   ) (3) (    )

@Paris   A London  B Vienna  C Salzburg  D Mannheim 

2)上の文章の内容についての説明として、もっともふさわしいものを、次の@からBの中から選びなさい。(    )

@モーツァルトが1777年秋から行った旅の中でつくられた3つのピアノ・ソナタ、特に、イ短調KV310について説明している。
AモーツァルトのKV309,310,311の3つのピアノ・ソナタは、モーツァルトの恋人アロイジア・ウェーバーの助言で作曲されたことを説明している。
Bモーツァルトのイ短調KV310のピアノ・ソナタは、実はパリではなくウィーンで出版されたというアインシュタインの新説の信憑性を論じている。

3)下線部 (a) は、どのような人物か、簡潔に1行で書きなさい。

4)下線部 (b) の指示を、分かり易く、簡潔に日本語で説明しなさい。

5)下線部 (c) で述べられているKV310第1楽章の解釈について、筆者の意見を参考にして、あなた自身のイメージを記しなさない。


6)下線部 (d) を訳しなさい。


U 楽譜に関する次の文章を読み、以下の問に答えなさい。

「作曲家が残した手書きの楽譜は、( 1 )(英語で 5 )と呼ばれ、作曲家自身が書いた「( 2 )」(英語で 6 )と、他人が( 2 )を書き写した( 3 」(英語で 7 )がある。
 ( 1 )をもとに印刷、出版された楽譜が( 4 )で、個々の( 4 )は、○○版(英語で 8 )と呼ばれ、区別される。最初に出版された( 4 )は、「初版」と呼ばれる。
 作曲家自身が書いた( 2 )がどの作品についても残されているわけではないので、そのような作品では、
( 3 )や初版に頼ることになる。
 ( 2 )は作曲家自身が書いたものだから、信憑性が高いように見えるが、問題もある。作曲家が作品を演奏する上で必要な情報をすべて書き残してくれているとは限らないからだ。後世の者から見てあるべきはずの指示がないとき、それは作曲家が単に書き忘れたのか、意図して書かなかったのか、判断が分かれるときがある。」

1)(1)から(8)には、それぞれ同じ番号について同一の用語が入る。下の@からIから選びなさい。

(1) (    ) (2) (   ) (3) (    ) (4)(    ) (5) (    ) (6) (   ) (7) (    ) (8)(    )

@ 筆写譜   A 自筆譜  B 原典譜  C 出版譜  D 手稿譜  
E verdict  F manuscript  G edition  H autograph I copy
2)楽譜についての次の説明の中から、明らかに適当ではないものを、二つ挙げなさい。
(  ) (  )

@作曲者が直接、間接に残した記述を別の者の判断を入れることなく、できるだけ忠実に伝えようとする版は、「原典版」と呼ばれる。
A楽譜に記されている運指法はあくまでも参考であり、譜読みのときには自分なりの指使いを書き込んでいくのがよい。
B「ベーレンライター版」の表紙は赤く、「ウィーン原典版」の表紙は青い。
C天才的なピアニストであったモーツァルトは、自分で演奏するときは必要最小限の音符しか記さなかったこともあったから、自筆譜がモーツァルトの演奏をそのまま伝えているとは必ずしも言えない。
D複数の指導者からレッスンを受けたときは、たとえばイニシャルなどで、誰のアドバイスかわかるように書き込んでおくことが望ましい。
Eベーレンライター社から出版されている新全集の楽譜はネット上で公開されており、無料でプリントアウトすることができるが、このサイトにアクセスできるのは、国際モーツァルト財団に加入している個人、団体に限られる。
Fモーツァルトの時代には、誰もが知っているような演奏慣行は楽譜には書き込まれなかったので、当時の演奏慣行を研究し、楽譜にはないディナーミクの変化を表現することは許される。
V 
シューマンとショパンの作品と演奏に関する次の10の文章のうち、明らかに間違っていると考えられるものの番号をすべて書き出しなさい。     
@シューマンの初期のピアノ曲に共通するのは、いずれも曲の単位を小さくし、並べていく構成である。そして、演奏の進行に伴ってひとつの方向を目指すと言うよりは、時間の経過とともに行方は混沌としてきて、矛盾はますます深まっていくような傾向が見られる。
Aショパンはシューマンが亡くなったとき、その死を嘆き悲しんだと言われる。そして、《子供のためのアルバム》の中に収められている「追憶」を作曲し、その死を悼んだ。
Bショパンが夢の中の混沌とした世界、幻想の世界に分け入ろうとするとき、シューマンは、研ぎ澄まされた感性をもった聴き手の耳を意識し、完成度の高い作品を追い求めたと言える。
Cショパンは、厳格なテンポを求めたと言われ、テンポが意味もなく揺れる演奏、感情過多の演奏を毛嫌いしたと伝えられる。しかしショパンが考える正確なテンポとは、メトロノームにあっているという正確さではなく、人間の呼吸としてのリズムにあっているという意味での正確さだと考えられる。
D「ピアノの詩人」と呼ばれるショパンだが、少ないながら歌曲も書いている。「美しい五月に」は、ハイネの詩にショパンが曲をつけた名作である。 ― 「すべての蕾が開く美しい五月に、私の胸にも愛が花開いた。すべての小鳥が歌うから、私も乙女に憧れと願いをうち明けた」 ― という内容。
Eシューマンの作品は、内声部を含む複数の声部を持つのが普通で、それらは互いに独立して動き、とても複雑な関係を持つ。拍節構造を曖昧にし、また、ひとつの和音の上に長く留まることはなく、和声は頻繁に変わっていく。
F《小犬のワルツ》に出てくるトリルは明快に弾くことが求められる。そのためには、鍵盤にへばりつかないようにし、弾き終わった指を潔く離すことが大切だ。
Gショパンのノクターンでは、分散和音を中心とする左手の伴奏の上に右手が美しい旋律を歌うというスタイルが多い。左手が音楽をリードしてメロディが乗りやすいベースをつくり、そして右手の旋律を美しく歌わせるタッチは、指の腹の柔らかい部分で弾くのが基本と言える。
Hショパンが使ったプレイエルなどのピアノは現代のピアノよりずっと音の減衰が遅い楽器だったから、ショパンが書き込んだペダルを几帳面に踏むだけでは不十分で、現代のピアノでショパンを弾くときは、自分の判断でかなりペダルを補わなければならない。
Iマズルカは大部分が簡潔な三部形式によって書かれている。三部形式の簡潔な様式の中で、無駄のない、技巧的な豊穣を表現しようとしたのだと思われる。
W 次のスコアの曲名を書きなさい。また、自分なりのディナーミクなど解釈を書き込みなさい。(運指は不要。)
曲名(               )

【解答】
T
1)(1)(C) (2)(@) (3)(D)    2)(@)
3) ザルツブルクのコロレド大司教
4) 歩くような速さで、歌うように、表情豊かに
5) 解答略 (私の著書、また、筆者の考え方に必ずしもとらわれなくてもよいので、自分自身のイメージを明確に書けているかどうかに着目して採点する。)
6) (訳例)(K.310のピアノ・ソナタと)似たような作品を、モーツァルトと同時代の作品の中から探そうとしても、それは徒労に終わることだろう。

U
1)(1) (D) (2)(A) (3)(@) (4)(C) (5)(F) (6)(H) (7)(I) (8)(G)
2) ( B E )
V ( A B D H)
W (メンデルスゾーンの無言歌集から「春の歌」) 書き込みの解答は省略。                   

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