神戸市室内管弦楽団「東京特別演奏会」

紀尾井ホールで開催された神戸市室内管弦楽団第156回定期演奏会「東京特別演奏会」。今回は「音の謎かけ」というタイトルで、モーツァルト、シュニトケ、プロコフィエフが演奏されました。

鈴木秀美マエストロのプレトークで「なぜ私達は古典を聴くのか、古典を聴いた20世紀前半の作曲家はそこに何を見出したか」の「謎」が提示され、その謎に導かれるようにして演奏がスタート。けれど最初の一音が始まった途端、「謎」を忘れて音楽に引き込まれてしまいました。

『アイネ・クライネ・ナハト・ムジーク』で弦楽器の魅力全開。マエストロがご自身チェロを奏されながら全体を導かれました。トップヴァイオリンが指揮者を兼ねるのはよくあるスタイルですが、低音を支えるチェロが主導。ハーモニーの動きがダイレクトに伝わり、普段聴きなれた曲が、新鮮に心に響いてきました。互いの息遣いを感じながらの一糸乱れぬ室内楽的アンサンブルが見事。

続いて『セレナーデ第12番KV388ハ短調』。管楽器のみのアンサンブルです。このセレナーデ、大好きな曲の一つなのですが、コンサートで演奏されることが少ない曲です。貴顕の人々の楽しみとしてセレナーデが存在していたあの時代、よくぞこのような緊張感に満ちた音楽を書いたものです。あらためて本当に名曲!と感じました。管楽器のアンサンブルはこの時代、貴族のお屋敷の野外などで演奏されていました。ベートーヴェンもそのような需要のために、管楽器の室内楽を書いています(室内楽といっても晴れた日は野外で演奏されたことでしょう)。けれど、こんな緻密でドラマティックな音楽が展開されたら、食事もお喋りもやめて聞き入ってしまったに違いありません。

会場にいらしていたモーツァルト研究家、田辺秀樹先生と休憩時間にお喋り。この曲をお目当てに?!いらしておられた先生が「いやー、今日は嬉しかったなぁ。KV388の名演が聴けて。」と満面の笑みを浮かべておられました。

休憩後、真っ暗闇の中で始まったシュニトケの『モーツァルト・ア・ラ・ハイドン』。モーツァルトの旋律を分解し、断片を重ね、緊張と混沌の中に「音楽?!」が進みハイドン的に終結します。コンサートマスター高木和弘さんと森岡聡さんの秀逸なヴァイオリンが軋むように立ち向かい、それはそのままこの作曲家の生きざまを表すかのよう。拒むことの意味、崩壊と絶望の音世界が立ち現れました。

最後は、プロコフィエフ交響曲第1番『古典』。ウクライナの作曲家であるプロコフィエフの溌剌とした音楽が始まり、シュニトケの緊張感の後ということもあってか、スーッと深呼吸するような快感が客席に満ちます。鈴木秀美マエストロのタクトのもと、生き生きと変幻自在なアンサンブルを聴かせてくださった神戸市室内管弦楽団に大きな拍手が続きました。「古典」とは何か?を問う謎かけ。この謎をこれからも追いかけながら「古典」を弾き、聴いていきたいと思っています。

お土産に「神戸ワイン」OR「神戸ウォーター」が配られ、笑顔で帰途につかれるお客様。幸せな神戸時間に感謝!の演奏会でした。
4月には、「田園をゆく、春」というタイトルで、神戸文化ホール 大ホールでグリークのピアノ協奏曲を協演させていただきます。
神戸の皆様に「春」をお届けできるよう頑張ります。

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