「伝説」のカリタス神話

私は、小学校4年生から中学2年生まで川崎の登戸のカリタス学園に通っていました。
カリタス・ブルーと言われるきれいな紺色のセーラー服を着て、毎日満員電車で通学。
転校生として入ったので、最初の数か月はフランス語の授業がチンプンカンプンでした。
皆がふにゅふにゅ言っているようにしか聞こえず、苦労しましたが、シスターの厳しい指導のもと、次の学期の試験で1番をとったときは、家でお赤飯を炊くほど?!感激しました。

カリタスは、愛徳という意味で、毎日のお祈りの時間には、神父様やシスターがたくさんの聖書の言葉を教えてくださいました。
マーガレットが咲き乱れるキャンパスとともに、思い出がたくさん詰まった「カリタス学園」です。

その後、音楽の道に進み、母校を訪れることもなくなってしまったのですが、
リストの「伝説」第2曲「波をわたるパオラの聖フランシス」のオーケストラ譜を見ていて、この「カリタス」の文字が楽譜に書き込まれているのを発見し、大いに驚きました。
ちょうど聖フランシスが波を渡り終え、神の祝福の厳かな響きに変わるところです。
リストは、その箇所に大きく”Charitas”「カリタス」と書き込んでいるのです。
オーケストラの自筆譜に書いてあるのなら、ピアノ譜にも書いた可能性が大きいと思うのですが、ピアノ譜のほうの自筆譜は、現在失われており、「カリタス」の記載の有無は、闇の中。
いずれにせよ、リストは、神の愛徳によって起こった奇跡の伝説を、音で表現したかったのかもしれません。

リストは、「ピアノですべてのことが表現できる」と豪語した人物。
オーケストラをピアノに移しかえたようなスケールのこの曲は、「文学と音楽」というレクチャーコンサートでもたびたび、とりあげたこともあり、以前から何度もステージにかけてきてきている曲の一つです。
ピアノで弾きこんできたこの曲のオーケストラ・ヴァージョンを聴いていて思いました。
ピアノ・ヴァージョンの方が、スケールが大きいのです。
どちらが先か、今も議論が分かれているこの曲ですが、ピアノをオーケストラのように使うことができたリストは、オーケストラを必要としなかったのではないか・・・とすら思えます。

聖人の声を、
「アッシジの聖フランシス」では、イングリッシュホルンに託し、
「パオラの聖フランシス」では、ホルン中心の音色で登場させます。
厳かで、慈愛に満ちた声を表す響きとして、どの楽器を選ぶのかは、ピアノでこの曲を弾くとき、作曲家のイメージをつかむうえで、大いに参考になるところです。

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