楽しいクラシックの会~春を呼ぶ音楽会~

昨年12月須坂で行われた「すざかバッハの会」コンサートが、楽しいクラシックの会主催で東京再演となりました。
礒山雅先生のお話、歌は、岩森美里先生、谷口洋介さん、大武彩子さん、そして今回は、フラウト・トラヴェルソに立川和男先生がご参加くださり、チェンバロは、国立音大調律科の大津直規先生に大変お世話になりました。

第1部はピアノソロ、第2部はバロック、第3部はオペラの愉しみ、という3部構成。
独奏、通奏低音、伴奏と1日で様々な役をさせていただきました。前回に続き、チェンバロにも挑戦。
一度舞台にかけると、そこで何かひとつ皮がむけるというか、ワンステップ伸びるというか、何かが削ぎ落とされていくような面があります。そして、怖さを知ったり、課題が見えたりしながら、曲と自分との距離が縮まっていくように思えます。
今回2回目となった曲では、それぞれのメンバー同志のアンサンブルが密になり、相手の呼吸を感じる感覚が鋭敏になっていく過程をはっきりと感じることができました。

ハバネラは、フランス語のリズムと気まぐれな曲想が、伴奏の固定されたリズムの上に奔放に流れ、会場は、カルメンの力に巻き込まれていきました。
大武さんのオランピアのアリアも、自動人形の人間離れしたコロラトゥーラの完成度が上がり、拍手喝采。
若手のステップアップと成長の現場に立ち会えることに喜びを感じました。

礒山先生を核として26年の長きにわたって続いている楽しいクラシックの会、そして10年続いている須坂バッハの会 ― この2つの輪が一つになった瞬間、演奏者としての私たちもミューズの神様とともに時を過ごせることの喜びを感じたひとときでした。
永田穂先生の音響設計による、セレモアコンサートホール武蔵野 も10年目に入り、ホールが落ち着き、今回、チェンバロを演奏してみて音響の素晴らしさもあらためて実感しました。

この数日、チェンバロとひたすら向きあい、バロック作品を弾き、ピアノで演奏するときとはまた異なる場面にもぶつかり、解決の道を見つけていく過程で、自分の中の「時間」に対する感覚に変化が起きました。
ピアノでは、当然のことながら、強弱や音色で変化をつけ、自分の中の音楽を表現していくわけですが、それができない楽器で弾く場合は、その表現のために、「時間」をどう使うかが勝負となってくる、ということです。
たとえば、2つの音をため息のように弾きたいとき、ピアノであれば、当然2つの音を強・弱とレガートでつなげます。その「強弱」もレガートもできない楽器で弾く場合は、1つ目を長めにとり、2つ目を短めにとることによって強弱に聞こえる・・・。
そんな無数の時間のマジックを駆使しながら、感情過多にならない中で息遣いを表現していきます。不協和音から協和音に変化する際に起きる時間と空気の変化、厳しい音程、なだらかな音程などの変化を、強弱や音色ではなく、どのような間をとりながら弾くとその修辞学的な内容を伝えることができるのかを考えると、のめりこんでしまい、夜もどんどん更けていく・・・という感じでした。
チェンバロの楽しさのスタート地点に立ったような気持ちになりました。

アンコールでは、バッハのト長調のメヌエットとアリアをチェンバロで演奏。
岩森先生の十八番「小さな空」のあと出演者全員で「早春賦」を演奏。
立川先生の温かなフルートの音色と3人の美声により、春を呼ぶ音楽会をしめさせていただきました。

お世話になりましたスタッフの皆様、おでかけくださいました会員の皆様に御礼申し上げます。

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