エヴァ・ポブウォッカ教授・公開レッスン

先週たまたま大学図書館で借りたCDが、「ジョン・フィールドのノクターン全集」。
2枚のうち1枚が、エヴァ・ポブウォッカ女史のものでした。妖艶な姿で微笑む素敵なジャケットとともに、豊かな歌心と美しい音色が印象に残りました。エヴァ女史の演奏を聴くと、もうひとりの女性ピアニストのCDが無機的に聞こえてしまいます。
解説書にあるように、ロシアのブルジョアに愛好されたフィールドのノクターン。つまらなく弾いてしまうと限りなく浅薄なBGMのようになってしまうのですが、エヴァ女史の指にかかると、はかなさ、色彩の変化、感情の襞までが見事に表現されます。

そのエヴァ・ポブウォッカ女史が国立音大でレッスンされると聞き、楽しみに出かけました。
ただ今日は、授業が朝からずっと詰まっていて、しかもいろいろ事務的な仕事も重なり、1時間ほど遅れてようやく講堂小ホールに入ることができました。ちょうどバラード4番のレッスンの真っ最中。
おそらくエヴァ女史、お得意のレパートリーなのでしょう。ひとつひとつのパッセージすべてを弾いてみせる念入りなレッスンでした。
大幅に時間延長。自ら時計を見て
「もう少しで終わりますからね」
と言いながらさらに延長、という熱心さです。
時間の制限がなかったら一晩中でもレッスンを続けることもあり得るのではないかとすら思えました。

左のアルペジオをもっと波のようにクレッシェンドして!
和音のタッチが固い、もっとやわらかく鍵盤を押して!
すべての音を均一にしてはいけない!
エチュードのように機械的に弾いてはいけない!
とこまかな指示が飛びます。

ゆったりと構え、生徒の良いところを引き出すタイプの先生もいらっしゃいますし、いくつかの可能性の中から選びなさい、と鷹揚なスタイルのレッスンもありますが、エヴァ女史のレッスンは、どちらかというとスパルタ式にすべてのパッセージをたたき込み、つくり上げていくタイプのレッスンでした。全ての音に対するイメージをはっきり持つことが厳しく要求されます。
一音たりともないがしろにすることが許せない!
という先生の気持ちが痛いほど伝わってきました。

2人目の曲は、リストの「ダンテを読んで」。
こちらのほうは、先生のレパートリーではないようで、先ほどのショパンの曲と違い、少し距離をおいた冷静な姿勢で曲と学生に向き合っておられるように感じました。
学生との体重差おそらく30キロくらいはあるかと思われる強靱な肉体で余裕を持って鳴らされる音は、美しく豊かで、変幻自在でした。
地獄のパッセージをなめらかに弾く学生に対し、
「そこは、ショパンのノクターンのように弾いてはいけない!」
と一喝。
おどろおどろしいリストの悪魔の世界の表現に近づけるべく左右のバランス、タッチなど指示されました。
音楽へのイメージやメッセージを音にする、という演奏家としての強い表現意欲とすさまじいエネルギー、音楽への真摯な姿勢を感じた2時間でした。

この秋から芸大の客員教授として就任されるとのこと。
芸大のレッスン室でエヴァ女史の大きな声が飛び交う日もそう遠くありません。

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