ピアノ選び for KV595

震災後、学生は登校禁止、教職員は自宅待機、という日々が続きましたが、
来月からは、大学も無事に新学期を迎えます。
4月の基礎ゼミでのレクチャーコンサートで、モーツァルトのピアノ協奏曲27番変ロ長調KV595を弾かせていただくことになり、今日は、そのピアノを講堂で選ばせていただきました。

私たち演奏家には、「選ぶ」という行為がつきものです。解釈においても、楽器の選択においても、ひとつを選ぶということは、もう一方を捨てる潔さがなくてはならず、間をとる、ということは不可能です。
ステージに置かれた2台のピアノ。

スタインウェイとベーゼンドルファー・インペリアル。

「ピアノの王様」と「ピアノの女王」と呼んでもいいような2人のうち、どちらかしか使えません。
スタッフのIさんは、ステージのこまかな音環境を熟知しておられ、それぞれの楽器をここに置くと音がこうなる、ということまでご存じです。
同じ位置に置いてくださり、2台の楽器を弾き比べました。
普段コンチェルトのときには(特に1500人以上の規模の大きな会場のときなどはなおさら)、スタインウェイを選ぶことが多いのですが、今回は、ベーゼンドルファーを弾くことにしました。
モーツァルトのKV595 のコンチェルトの表現に欲しい音色、という面で、こちらに軍配が上がったからです。
華やかさ、強靭さは、明らかにスタインウェイが勝っていますし、すぐに音が鳴る、という面で、はるかに演奏は楽になるのですが、音色の部分で、どうしても私が欲しい音はベーゼンドルファーにありました。

ただし、今回の選択、吉と出るか、凶と出るかは、大冒険。
ベーゼンドルファーは3年前のコンサートで使われたきり。温まっていない状態なのです。しかもこの楽器、ベヒシュタインと共に、一度は、廃棄処分を提案されたこともあり、危ないところを救われた、という経緯もあります。
でも今、もし使わなければ、またお倉入りされてしまい、本当に楽器としての音色を失ってしまうような気がしました。楽器は奏者が息を吹きかけることで生命を保ち、演奏することで音色が生まれていきます。
「私を助けて」
という声が、楽器から聞こえてくるように感じました。

ベテランスタッフ、Iさんとともに、決断。
「よし!今回はべーゼン!!」
明日、明後日と愛情をたっぷり注ぎながら、弾きこみ、楽器に命を蘇らせる覚悟です。

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