「バロックダンスと音楽のスペクタクル」

紀尾井ホールで行われました
「バロックダンスと音楽のスペクタクル 舞曲は踊る ヴェルサイユ宮殿~現代」
と題されたコンサートにお伺いしました。

ヴェルサイユの祝祭プロジェクトの主催、浜中康子さん制作・監修です。
小柄な浜中さんのどこに、こんなエネルギーと実行力が・・・と驚嘆するような大プロジェクト。
それぞれが忙しいメンバーだから、合わせをするだけでも大変なの!
と大学でお会いしたときにおっしゃっておられましたが、ステージの美しさもさることながら、時空を超えた音楽とダンスの融合に目をみはるものがありました。

ステージ向かって左手に、バロック・アンサンブル、右手に現代のピアノ・トリオという配置。
太陽王ルイ14世の凛々しい姿を思わせリュリのアポロンのアントレ(フイエ振付)に始まり、モーツァルトのパントマイム「パンタローネとコロンビーネ」に続きます。
モーツァルトのパントマイムは、初めて見るもので、興味深々。
この曲は、1783年、謝肉祭でウィーンのホーフブルクの仮面舞踏会で休憩時に上演されたものとか。
モーツァルトが書いた楽譜のうち、残っているのは第1ヴァイオリンのみ。今回、そのパート譜をもとに、上尾直毅氏が補筆されたそうです。
このパントマイム、モーツァルト自身もダンス教師やアロイジア、画家やランゲと一緒に上演に加わっていたそうですが、チャーミングな浜中さんの姿がアロイジアと重なり、モーツアルト時代にタイムスリップしたような感じでした。
音楽としては、感情表現を音にする、という意味でオペラにも通じるところがあるのですが、歌詞がないパントマイムだけに、よりダイレクトな表現になっているに感じました。
拒否したり、説得したり、、、という人間模様が踊りのリズムとともに、展開します。

新実徳瑛さんの新作、ピアノ三重奏曲「パッサカリアD」では、バロック時代のステップのパッサカリアから現代バレーのワルツに移行し、最後には融合する、という仕掛け。
融合したあとの浜中さんの動きが見事で、このプロジェクトにかけた情熱がうかがえました。
バロック時代、王侯貴族にとって馬術、剣術、ダンスは、身に着けなければならない3つの義務でもあったそうです。ダンスを通じて、趣味の良さ、作法などすべてが見透かされてしまう、貴族にとっては緊張の時間でもあったと思われます。
「宮廷の高貴な身分の踊り」、「田園への憧れ」、「エキゾティックな世界」という3部構成のエンターテインメント。
スペインのカスタネットやギターの響きも耳に残ります。

鍵盤楽器講義の時間に、音楽と身体性というテーマで、ひと月ほど前に皆で議論したことがあります。
あるとき、ポッと変わるのではなく、だんだんに変化していく、というダンスの世界。
ダンスも変化しながら、現代に至ってきました。
バッハの器楽曲のように抽象化された音楽は、踊るための音楽ではないのですが、舞曲の中に宿る身体の動きは、まぎれもなく音符の裏に隠されています。
音楽と踊り、という切っても切れない縁を持った2つの世界について、時空を超えて楽しませていただいたひとときでした。
朝岡聡さんの司会は、まったく見事でした。

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