ブーレーズとのレスポンソリウム

聴き伝わるもの、聴き伝えるもの ~20世紀音楽から未来に向けて~シリーズ第12夜が、国立音楽大学講堂で開催されました。
現代作品と新作から構成されるシリーズで、今回は、昨年逝去したピエール・ブーレーズへの追悼の意も込められたプログラミング。コンセプトは、ブーレーズとのレスポンソリウム(応唱)です。ブーレーズの系譜を辿りつつ、時空を超えたレスポンソリウムが宙に響く時間となりました。
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大編成の「レポン」は、日本での上演が22年ぶり2度目、という大がかりな作品です。今回2016年に出版された決定稿による日本初演ということで、現代音楽界の重鎮ら関係各位の顔ぶれも客席にお見受けしました。
演奏会に先立ち、今回のコンサートの企画に携わられた作曲家の川島素晴先生のプレトーク。プログラミングの理由や聞きどころをお話しくださり、さらには森垣桂一先生をステージに招き、メシアンのもとで学ばれた頃の思い出話をインタビュー。演奏会に期待が膨らみました。
プログラム最初の曲は素晴らしいオーボエ奏者でありながら、ブーレーズに師事し、作曲家でもあるハインツ・ホリガーの作品。「詩篇」と題された無声音のみの合唱曲です。ユダヤ人ツェランの厭世観が、口の動きや顔の表情、唸り声や声にならない声で表現される、前代未聞の「合唱」でした。大ホールの一番後ろの席で聴いたにも拘わらず、「溜息」や「かすれ声」でさえ、異常な緊張感と水を打ったような静けさの中ではっきりと伝わってきました。半年かけて準備してきた創作系の学生たちの”熱演”に大きな拍手!
続いてブーレーズの師であるメシアンの「オルガンの書」が、近藤岳氏によって演奏されました。
地獄からの懇願と神の声の応答、鳥の声、生き物の霊など、宗教的な世界が、パイプオルガンのpppからfffまで使った前衛的で強烈な響きの中で渦巻くようでした。
そして新作は、森垣桂一先生の合奏協奏曲。本学教授陣(武田忠善学長のクラリネット、大友太郎先生のフルート、山本英助先生のトランペット)をソリストに、クニタチ フィルハーモニカーとのアンサンブルが披露されました。色彩、明暗についてメシアン先生から薫陶を受けたと仰る森垣先生の作品は、3つの管楽器がそれぞれの音色で「応唱」し、言葉でなく音で語りあっているように聞こえてきます。それぞれの音色が空間に響く中、不協和音が美しく溶け合う?!不思議な世界を感じました。
休憩後に、今夜のメインプログラムであるブーレーズの「レポン」。ピアノ、電子オルガン、ハープ、ヴィブラホン、グロッケンシュピール、ツィンバロンを担当する6人のソリストに加え、今井慎太郎先生のエレクトロニクス(電子音響装置)と室内オーケストラ、という編成。
オーケストラは、客席中央に位置し、会場内の6カ所にソリスト陣が配置されています。
国立音大講堂がまるで一つの宇宙になったようで、楽器が惑星に見えてきます。それぞれの惑星が発する音が呼応し、空中分解したり、融合したり・・・。
私は、ハープの後ろにいたので、テレビカメラに映る板倉康明氏の指揮を見ることができました。板倉氏のプロフェッショナルなタクトから空間と時間と響きが創り出され、見事な音世界が展開されていきました。40分を超える長大な作品で、まさに壮大な「応唱」のスペクタクル!
最後の音が終わっても大きな感動でしばしの静寂。そして日常に戻り、地から沸き起こるように大きな拍手が。
大学だからこそできた音楽会の成功に、奏者も客席も一つになって喜びを分かち合った瞬間でした。
原初生命体としての人間を感じた音楽会。言葉ができる前、身体の中から沸き起こる内なる声が、呼応しあい、伽藍に響く。。。。そんな非日常の経験でした。
企画、準備に多くのエネルギーと時間をかけて取り組まれた創作科目会の勝利!
おつかれさまでした!

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