今年は暑い日が続き、お彼岸にヒガンバナが咲かなかった、というニュースを見ました。異常気象は植物や野菜に大きな影響を及ぼしているのでしょう。10月に入ってようやく大学の事務棟の前のヒガンバナが咲きました。
先週9月29日には、大学講堂大ホールで「聴き伝わるもの、聞き伝えるもの」の演奏会が開催され、刺激に満ちた聴体験の時間となりました。
ピエール・ブーレーズの《レポン》日本初演が行われたのが2017年。このシリーズでの演奏会でした。ちょうど90歳のブーレーズが天に旅立った翌年のこと。今回はその再演にあたります。
大作の「現代音楽」を50分聞いていたにも関わらず、時間が短く感じたのは、いかに濃密な作品か、という証でもあります。
この曲は6人のソリスト、ライヴ・エレクトロニクス、そして24人の室内オーケストラという大掛かりな作品。現代音楽の指揮で国際的活躍を続ける板倉康明氏、コンピュータ音楽の超スペシャリスト今井慎太郎先生をはじめ、作曲学生、器楽学生、卒業生、演奏家などが一丸となって一つの舞台を創り上げたことに感動。今回の再演に際しては、管弦楽の配置変えも行われ、グレードアップしたステージになりました。
前半はハインツ・ホリガーの《プネウマ》オリジナル(大編成)版日本初演。川島素晴先生の解説によると「プネウマ」は、古代ギリシャ語で、息、風、空気、ひいては呼吸、生命、精神といった意味を持つ言葉だそう。リコーダーの頭部管やラジオや鍵盤ハーモニカなどによって創り出される音世界。自然の中に溶け込むような不思議な感覚に浸りました。ホリガーは、スイスのオーボエ奏者、作曲家として八面六臂の活躍を続けるスーパースター。自ら管楽器奏者としての経験値によって、息や空気への感覚が研ぎ澄まされていったのかもしれません。御年85歳のホリガー、来年の「吹き振り」公演は逃すまい!と思った次第です。
その後に板倉氏がクラリネット奏者として登場し、自身の作品《川面の煌めき》を演奏。水が山から川へと形を変えながら循環することを時間藝術と重ね合わせた作品。ドビュッシーにも通じる音楽観を響きに託した世界初演でした。
作曲、演奏、指揮、教育、すべてにおいて高いレベルを持つ人物をフランスではミュジシャン・コンプレ(完全なる音楽家)と呼ぶそうです。
国立音大作曲専修の菊池幸夫先生、川島素晴先生の企画によって実現したミュジシャン・コンプレの系譜。成功に拍手しつつ、会場を後にしました。
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