調律

先日、学生のみなさんと一緒に、久しぶりに国立音大調律科に伺いました。
image
大学の前に西武新宿線が通っており、その踏切を渡ったところに調律科があります。修理中や製作中の楽器が置いてあったり、たくさんの道具が並んでいたり、巻弦の機械が見えたり・・・一番身近な「ピアノ工房」です。
ふだん一番多くお世話になっている調律師さんも国立音大の調律科出身。また旅先の演奏会で、思いがけず国立音大出身の調律師さんにお会いし、「くにたち」の話題で盛り上がることもあります。調律科で「調律体験」をした音感抜群のフルート科の学生が、その後ベーゼンドルファーの調律師さんとして成長していて、ショールームで再会したり・・・。繋がりや広がりを嬉しく思っています。
私が調律と弦の張り替えに初めて挑戦したのが、ハンガリーでした。リスト音楽院のジョルジュ・ナードル先生がご自分で弦の張替えもされておられ、手順を教えてくださったのです。ピアニストは、弦の張替え、修理、調律は自分でできないといけない!とのお言葉でしたが、帰国後、私はやはり親しい調律師さんにすべてをお願いするようになってしまいました。
現代ピアノの調律は力を要します。演奏会前に200本の弦の調律をしてから演奏・・・というだけの体力と気力は私にはありませんし、か弱い?!私の力ではすぐに狂ってしまうのです。何より、弦の張替え後のナードル先生の指先からはちょっと血が出ていましたし・・・。演奏会の日、朝から晩までの重労働をしてくださっている調律師さんには毎回感謝です。
image
マイナスドライバーで赤い布を弦に挟み、鳴っている弦同志の唸りを聴いたり、ユニゾンをピタッと合わせたり、という作業。チューニングハンマーを持ってチューニングピンを少しずつ回し、音程を作っていきます。
はじめのうちは「わかんない~」とお手上げ状態の学生も慣れてくると面白くなるようです。私も久しぶりに、一緒に行っているうちに、楽しくて時間を忘れてしまいました。ここから先の修行は「厳しい」の一言に尽きましょうが、唸りをキャッチしたり、純正な響きに覚える快感は、調律の最初の一歩かもしれません。
「調律師」さんの映画や小説なども登場し、スポットが当たることも多くなった調律という仕事。
科学的なのに、神秘的。古のピタゴラスの時代から現代に至るまで、変わることのない音響の法則と数字の藝術。奥が深く繊細で、しかもタフな調律の世界。
楽器と調律と奏者と空間。その中で今日も音楽が鳴り響いています。目に見えない「音楽」の世界に生きることになった不思議を、慌ただしく過ぎていく日常の中で時々ふと感じています。

コメント