アトリエコンサート(一日の終わりに)

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7月31日夕刻、クラヴィコード制作家、山野辺暁彦さんの工房で開催された静かなコンサートにお伺いしました。
「開演は、日没後、ローソクのあかりで始めます」とあります。
出演者は、二人の若いお嬢さん。観客は数人という静かなコンサートです。
第1部は、出口実祈さんの演奏で、J.H.シュメルツァーのソナタ。ペダルボード(足鍵盤)での通奏低音と、ポシェット(小型)ヴァイオリンを一人で事もなげに堂々とやってのけてしまう若き才女です。ローソクの炎の中で、最後の音が減衰していく場面は感動的でした。
第2部は、野村桃子さんのクラヴィコードでバッハの平均律2曲。野村さんは、クラヴィコードを始めたばかりとのこと。若い感性で自然に触れる古楽器の世界、、、どんどん引き込まれ、きっと来年は初心者ではなくなっていることでしょう。
第3部でコレッリのソナタを二人で演奏した後、可憐な野村さんが一つ一つ蝋燭を消していきました。この場面、どこかで見たことがある…と記憶を辿ると、〈巡り逢う朝〉という映画でした。とにかく映像と音楽が秀逸!光と影と風景が限りなく美しく描かれています。その中で蝋燭をつけて演奏が始まり、女の子が蝋燭を消してコンサートが終了するという場面が出てくるのです。
「めぐり逢う朝」は、17世紀後半から18世紀にかけて活躍したフランスのヴィオラ・ダ・ガンバ奏者マラン・マレと師匠サント・コロンブとの確執と和解がテーマです。妻が昇天してからは宮廷に出入りすることを嫌い、幽霊として降りてくる妻のために演奏するサント・コロンブ。コロンブの娘を利用し技を磨いた後に娘を捨て、師匠とは対照的に宮廷音楽家として出世し華々しい世界に生きるマラン・マレ。
この映画でヴィオールのサウンドを担当したジョルディ・サヴァールが大ブレーク。ヴィオラ・ダ・ガンバのブーム到来の火付け役になった映画でもあります。
とにかく「マラン・マレって酷い人!」と思ってしまう映画なのですが、映画の内容そのものは、全くのフィクション。師匠の音を床下で聴いて勉強した、ということ以外は、全くの作り話だとか。実際のマラン・マレは、穏やかで温厚な人物だったそうです。
いずれにせよ「ローソクの光の中でコンサートをしたかった」という山野辺さんの夢が叶った夕べでした。00コンクール優勝・・・などとぎょうぎょうしく書かれたプロフィールも一切なし。開演時刻は、日没・・・。あるのは、バロック音楽と蝋燭の灯りだけ。なんとも静かで素敵なコンサートでした。
ただし、、、ひんやりとした映画の中の空気では蝋燭の炎は限りなくロマンティックでしたが、真夏日の八王子(特に2階の客席)は、サウナ状態?!。静けさとともに汗が噴き出す演奏会でもありました(笑)。秋の夜長に再演を!と思いながら帰途に着いた次第です。

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