オールド・ベーゼンで弾くモーツァルト

1829-2
1829年製ベーゼンドルファーの譜面台に載せているのは、モーツァルトの自筆譜のファクシミリです。

モーツァルトは1791年にウィーンで亡くなりますが、その名声はすぐに高まりました。
19世紀の初頭、モーツァルトの作品はヨーロッパ中で盛んに演奏されるようになりました。
その頃、ウィーンの人々は、この楽器でモーツァルトのピアノ作品を弾き、楽しんだことでしょう。
ウィーンナーアクションと呼ばれる当時の打弦機構は、現在のイギリス式のアクションとは大きく違います。
跳ね上げ式と呼ばれ、力強く打ち上げる現代の弦の打ち方とは逆に、跳ね返るような動きでハンマーを打ちます。
その結果、軽やかで繊細な独特のニュアンスが生まれ、何もしなくてもそこからモーツァルトが、あるいは、バッハ・ジュニア、ベートーヴェン、ハイドンの初期の音が、生れ出てくれるような感じです。
ところが、なぜ、このアクションがすたれ、イギリス式にとって代わられていったのか。
このウィーン式は、上まで上げないと次の音が鳴らせない、つまり速い連打は不可能な楽器です。
加えて、調整がとても難しい。ほんのちょっとのずれでもって音が出なくなる、調律師さん泣かせの楽器です。
鍵盤の深さは、現代のピアノ1センチに対して、6ミリ。
KV333の速いパッセージは、驚くほど軽やかに回ります。
体全体を使う必要はありません。
モーツァルトが、シュタインの娘が腕や体をくねくね使って弾居ているのを見て馬鹿にしたのがわかる気がします。
指から鍵盤にかかる重さは、現代の楽器の5分の1くらいといってよいでしょうか。
ハンマーも小さく、軽やかな音色です。
ピアニッシモのニュアンスも細かく出すことができます。
気持ち良く弾いていって、最後のページの3連符の連打・・・・。
ここで、はたと躓きました。
ほかの箇所は速いテンポで楽に弾けるのに・・・・
逆に、現代のピアノで弾いているときのテンポでもこの楽器では連打が不可能なのです。
自分のテンポを微妙に1829年にスリップさせました。

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