オールド・ベーゼンの弦

1829年製ベーゼンドルファー。
齢、183歳の高齢です。
1828年に創業のベーゼンドルファー社。その創業者イグナーツ・ベーゼンドルファー自身が手がけた貴重な楽器です。
ウィーンの楽器博物館にも当然ながらたくさんのベーゼンドルファーが展示されていますが、創業翌年に製作されたこの楽器より古い楽器は1台もありません。
ですので、この楽器が現存する世界最古のベーゼンドルファーということになります。

私のもとに縁あってやってきてくれたこのピアノ。
ボディなどは、きわめて健康な状態で、いかに良い木で作られていたかがよくわかる名器でしたが、当初は、まったく音が出ない状態でした。
それまでの修復の過程で弦の張力に耐えられなくなったピン板(チューニングピンが打ってあり、弦の張力を支える板)がめくれあがってしまい、それに伴い持ち上がってしまった弦を、当然ながらハンマーは打つことができず、音が出ない状態にありました。
「演奏可能になります」とおっしゃっていただいた小野哲さんによって、修復開始。
調査の結果、いくつものハードルが立ちはだかり、その修復には、長い時間が費やされました。

現代の弦を張ってしまうと当然ながら、それに引っ張られピン板はどんどんはがれていきます。

オリジナルの板、弦の材質を保ちながら、はがれを防ぎ、、張力を計算する ― 気が遠くなるような研究と作業を重ね、マルコムローズに特注された弦が張られ、いよいよ音が出た日、思わず歓声があがりました。
小野哲さんに感謝です!

1829-3

ウィーンナーアクション。
ハンマーが弦を打つ瞬間、この赤い部分がコンコンと持ち上がります。
ダンパーの返りがちょっとでも悪いとそのまま音が残ってしまう、調律師さん泣かせの楽器でもあります。

1829-3bl

これからモデラートペダルやソフトペダルの調整などこまかな作業が入り、お披露目の日が近づきます。
天国のイグナーツさん、見守っていてください!

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