安井耕一先生・ベートーヴェン論

今年は、演奏研究所員として、様々な諸先輩の先生方から貴重なお話を伺ったり、優秀な演奏家の方と共演させていただいたりしています。
今晩は、24日に引き続き、安井耕一先生からベートーヴェン論、ピアノ演奏論をお聞きしました。

押しつぶして絞り出す、という意味が語源のespressivo。
ロマン主義、表現の時代に、他者のメッセージをいかに読み取り、表現につなげていくかについて、様々なお話が展開されました。長年、ドイツ音楽に傾倒されてきた安井先生の言葉には重みがあり、考えさせられることがたくさんありました。

「私たち演奏家は、変えないでずっと続けてきたことがある。それが思想であり、個性である」

「人といかに違うか、ということが個性だというふうにはき違えている人がいるが、そうではない」
「ヨーロッパの音楽には、他者に迫り、肉迫しようとする精神が宿っている」

ピアノ教育については、ブラームスの練習曲を取り上げ、先生がコンラートハンゼン氏のレッスンから学ばれた肉体の使い方 ― まさに「鍵盤をえぐる、掘る、指のサイドを使う」ことについてこまかに展開してくださいました。
出た音を自分に引き込んで自分の体の中に響かせること、自分を楽器としても鳴らすこと、円運動を関節を通じて鍵盤に伝える動き、などなど、演奏法についてもこまかく明示してくださいました。

音と音の間から感情を読み取る感性、それに加え、身体的感覚が科学的理論によって裏付けられて初めて、演奏、解釈というものが成り立つということ、そしてふだん演奏家が無意識にしていることを実践的に解明し理論化すること ― これらが、ピアノ教育に必要不可欠であるように感じました。

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