Piano Lesson 88 & メトロノームのこと。

プリマ楽器の情報誌、Piano Lesson88の表紙に掲載されました。
学研パブリッシング出版の楽器から作曲家をアプローチするシリーズ第1弾
「名器から生まれた名曲 モーツァルトとヴァルター・ピアノ」の出版に関しての記事です。
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タイトルのPiano Lesson 88は、おそらく現代のピアノの鍵盤の数88から来たネーミングだと思うのですが、
モーツァルトが使っていたヴァルター・ピアノは、61鍵しかありません。
今よりだいぶ少ない鍵盤数です。
5オクターブの宇宙であるモーツァルトの世界。
今弾いているベーゼンドルファーインペリアルは、同じウィーン生まれの楽器でありながら、なんと8オクターブ。
巨大になり、堅牢になり、強力になった現代のピアノです。
そんな、当時とは全く異なるピアノたちでモーツァルトを弾く時、敏感な弾き手であればあるほど、ある種の違和感や難しさを感じるのは、当然のこと。そのギャップを飛び越えて、モーツァルトの心に迫り、演奏を楽しもう!というのがコンセプトです。
プリマ楽器さんには、若いとき、フランス、フルート界の大御所、アラン・マリオン氏のマスタークラスで伴奏ピアニストとしてご一緒させていただいた折、お世話になりました。
海外ツアー中に、突然天国に旅立たれたマリオン氏でしたが、フルートの美しい音色と楽しいお人柄をときどき思い出します。ユーモアあふれるマリオン氏は、休憩中はいつも冗談を言い、まわりを笑わせながら、自分も笑いころげておられました。一緒の写真が何枚か残っていますが、全部先生は笑っておられます。
マリオン先生は、テンポに厳格な方で、レッスン中いつも腕時計と一体化したメトロノームを使用しておられました。「YUKO!これは絶対便利だ。時計とメトロノームを両方持ち歩かなくてすむ!」と勧めてくださったのですが、けっきょく買わずじまい。今は、携帯電話にメトロノームを無料ダウンロードして入れています。
レッスンでは、テクニカルな課題でテンポが遅れたり、いいかげんなテンポ設定の生徒がいるとカチカチ始め、テンポの重要性を説き、自ら見事な演奏をしてみせました。プロのミュージシャンの正確なテンポ感を身をもって示されたマリオン先生でした。
それに対し、ウィーンのピアノ三羽烏の一人、イエルク・デームス氏は、全くメトロノームを使いません。「いい音楽家になりたければメトロノームを便所に捨ててこい。音楽は生きたもので、機械のように同じであってはならない!」というのが、口癖でした。ウィーン訛りのドイツ語のようだと言う方がいらっしゃいますが、円を描くというより、楕円形を描くような拍子のとり方は、独特な味わいです。
「テンポは音楽の中で最も重要です」とは、モーツァルトの言葉。
そして、演奏家のテンポ感は、その演奏の個性が最も現れる要素の一つかもしれません。

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