モーツァルティアン・フェライン第338回例会

6月14日(土)、モーツァルティアン・フェライン第338回例会「モーツァルトの愛したピアノ、ヴァルターとシュタイン聴き比べ」(於:セレモアコンサートホール武蔵野)に出演させていただきました。
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使用楽器は、
ペトロゼッリ制作のヴァルター(1795年)モデル
ズッカーマン制作のシュタイン(1788年)モデル
の2台です。
シュタインの方は、ドイツの音楽学者ボイヤーマン氏が個人的にズッカーマンに特注したというピアノフォルテで、氏のコレクションから日本にやってきて10か月がたちました。状態も落ち着いてきています。今年10月には、フィリアホールに持ち込み、かなフィル室内楽コンサートでモーツァルトのヴァイオリンソナタ、ピアノ・トリオを演奏させていただく予定です。ヴァイオリンの崎谷直人さんとチェロの山本裕康さんとの初共演、楽しみです。楽器の調整も念入りに進めていきたいと思っています。
一方、ペトロゼッリ氏は、イタリアの楽器制作家で、彼の楽器は、まだ日本に1台しか入ってきていません。彼のピアノフォルテは、昨年のイタリア古楽コンクールでも使用され、今後の活躍が期待されるところです。お父さんも楽器制作家だそうで、お父さんの代からのとてもいい材料を受け継ぎ、美しい出来栄えです。今後、さらに年月を経て響きが豊かになっていくような予感がしています。
今日のコンサートでは、モーツァルトの若いころの作品を前者で、晩年の曲を後者で聴いていただきました。
シュタインの敏感で少し鋭い感じの音に対して、まろやかで円滑で豊かなヴァルター。それぞれに持ち味がありますが、弾いていて感じるのは、バックチェックのおかげでヴァルターの方がかなり弾きやすいことです。2度打ちや音がかすったりすることがほとんどありません。ただシュタインのコロコロとした軽快さ、敏捷さは魅力的で、モーツアルトが「デュルニッツ・ソナタを弾くととても素晴らしい効果をあげた」と、シュタインを絶賛したのもうなずけます。
会場には、調律師さんや楽器制作家の方もいらして、終演後の打ち上げでは、楽器を巡って、マニュアックな意見交換や情報交換の場となりました。
楽器の聴き比べの会のとき、現代楽器と歴史的楽器を比べてしまうと 絶対的な「音量」の差に耳をとられ、「音色」の違いの印象が薄くなってしまいますが、ほぼ同時期の楽器を比べると、個性の違い、音色の差が顕著になるように思えます。そういう意味で、今回の聴き比べはモーツァルト愛好家の皆様にとって、そして私にとってもいい機会となりました。
白黒の鍵盤は、現代のピアノと逆ですし、タッチするとき鍵盤にかける重さも半分くらい。
そしてこの時期の楽器は、5オクターブの音域ですので、曲の中で何度か最高音(ファ)が出てくると、一番上の鍵盤を叩くことになります。現代の88鍵のピアノを弾くときより、”音高クライマックス!”を強く感じる瞬間です。
フェラインの共通語は、「モーツァルトが好き」というその一点。会のメンバーには、モーツァルトの自筆譜ファクシミリ収集家、各国のモーツァルト音楽祭に参加される方。膨大なモーツァルトのオペラの映像資料を集めておられる方、モーツァルトの足跡を追って旅を続けておられるご夫婦などそれぞれの楽しみ方を極めておられます。会長の澤田義博さんご自身も「パリのモーツァルト~その光と影~」(アカデミア)を上梓されたばかり。
サロンで生まれたモーツァルトの曲をサロンの雰囲気で弾き、その音世界と響きをモーツァルトを愛する皆様と共有した2時間でした。

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