早春の室内楽

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たましんRISURUホールで開催されました国立音楽大学コンサートに出演。
シューベルトの「岩上の羊飼D965」を演奏させていただきました。
クラリネットの武田忠善学長先生、ソプラノの佐竹由美さんとの共演です。

実は、学生時代や若い頃、何度か演奏したことがあるのですが、あまり好きな曲ではありませんでした。
今回、自分が年齢を重ねたせいか、優れた共演者に恵まれたせいかわからないのですが、
大好きな曲の一つになりました。

上の写真は、リハーサルを終えた直後の3人の笑顔です。

作曲家が最晩年の曲に使うことの多いクラリネット。
人の心の中から発する声のように、深く染み入ります。

「岩上の羊飼」は、シューベルト最後の歌曲。600曲以上ある歌曲の中でも格段に規模の大きな作品です。3つの詩を組み合わせ、音楽も3部分からなり、歌、クラリネット、ピアノの三重奏という特異な組みあわせ。

気鋭のシューベルト研究家、堀朋平さんが訳されたハンス=ヨアヒム・ヒンリヒセン著「フランツ・シューベルト あるリアリストの音楽的肖像」の中で、コンサートでの上演を念頭に置いた新種の編成の実験としてこの曲が紹介されています。

「この時期に書かれたピアノ・トリオでも、落ち着いたはずの調が異名同音によって読み替えられ、遠い調で副次主題が奏でられる、といった冒険がなされており、これは”他世界への憧れ”を示している」と、堀さんはご自身の著書「フランツ・シューベルトの誕生」の中で述べられています。

この行くはずのない調や和声に飛ぶ瞬間が「岩上の羊飼」の中にも多々現れます。その移調と転換を担当するのが、ピアノの役目。おそらくこの不安定感が、若く未熟な私にはついていけなかった理由なのかもしれません。「憧れ」、「さすらい」 というキーワードで語られることの多いシューベルトの音楽。音の意外性の中に、シューベルトの味わいと香りを感じ、年を経てようやく、この曲の良さに少し近づけたような気がしています。古典は、年齢を重ね、経験値が増えることによって、見えてくるものが増す、深い世界だとあらためて感じました。

透明感のある歌唱でシューベルトの世界を表現してくださった佐竹さん、香りある豊かな音色で憧れを表現された武田学長先生に感服。

そして和声分析から、その象徴的意味、新たな切り口に目を広げてくださった堀さんの本にも感謝です。

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藝大同期の佐竹さんと私。終演後の打ち上げで誕生日が一日違いということが判明。日常よく着ている服のメーカーが一緒ということも楽屋で判明。仲良しダーリンに桜の下から電話をしている佐竹さんとのツーショットです。

satake

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