春の第九

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紀尾井ホールの前の桜の蕾もふくらみ始めた今日、
この3月に国立音楽大学を退任なさる永井宏先生の指揮で、「第九」の演奏会が開催されました。
題して「国立音楽大学退任記念演奏会 永井宏 ベートーヴェン 第九」。
合唱は、「退任記念特別合唱団」、管弦楽はオイレンシュピーゲル。

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エグモント序曲に続いて、第九が始まり、ソリスト登場。バリトン黒田博先生の最初の一声の瞬間、見えない糸で結ばれたステージ上のすべての音楽家と応援に来た客席の気が一つになり、ピンと張り詰めた高揚感が会場に漲りました。特に合唱一人一人の意気込みは、客席にダイレクトに伝わってきます。永井先生の眼差し、指の動きひとつも見逃すまい、、、という永井先生への想いと曲への畏敬の念が合体。

日本では、毎年暮れの恒例行事として「第九」が演奏されますが、本家本元のヨーロッパでは、特別のときにしか「第九」が演奏されません。ベルリンの壁崩壊など、歴史を塗り替えるような一大事に演奏されるため、軽々に演奏しないのだとか。そのため「第九」はヨーロッパより日本の歌手のほうが断然慣れていて上手、という話を聞いたこともあります。

暮れではなく、この桜の時期に演奏された今日の「第九」は、永井先生の薫陶を受けてきた声楽家の方たちにとり、まさに「特別」の第九だったと言えましょう。

「真実は一つ。音程も一つ」が口癖でいらしたという永井先生ですが、
今日の合唱で歌った方の話では、「熱狂状態になって、もう音程とか何にも考えてなかったよね。」だそうです。
国立音大生にとって「第九」は、毎年厳しい指導のもと、N響との共演が続いてきた特別な曲。
テノールの福井敬先生も、学生時代、合唱の授業でのピアニストとして、永井先生にお世話になったとのこと。今日もエネルギーあふれる歌唱をされた福井先生ですが、「指揮なさっている先生の表情を、振り向かせて皆さんにお見せしたい位、素敵なお顔をなさっていた」と仰います。

ソプラノ佐竹由美さん、アルトの清水華澄さんも永井先生のタクトとともに多くのステージに乗られたことでしょう。

終わって、ステージからも客席からも「永井先生、ありがとうございました。」の大きな大きな拍手は、
有終の美をベートーヴェンの「第九」とともに飾られた永井先生への感謝の響きそのもの。音楽の力と「くにたち」の結束を感じた演奏会でした。

紀尾井ホールから四谷駅までの帰り道、花の香りがいっぱいに広がり、春の訪れを告げていました。

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