美しいドイツ語

昨日、音響学の森太郎先生の訃報が入りました。50代に入ったばかりのお若さで、これからたくさんの研究成果を残される方でしたのに。。。悲しい知らせに胸がふさぎました。

いつもにこやかで静かな方でした。ドイツでピアノメンテナンスについて学ばれ、その後、音響学をご専門にされ、調律科では楽器について教鞭をとられていました。この数年、闘病生活に入られ、同僚の皆で経過を心配していた矢先のことです。

緻密で、バランス感覚に優れたジェントルマンでした。森先生がご病気になるずっと前、一度だけ、音楽学の先生方と共にお食事をご一緒させていただいたことがあります。

夜更かし、暴飲暴食のメンバーが多かった中で、森先生は一線を画しておられました。毎晩8時には就寝され、健康診断を欠かさず、喫煙もされない方でした。

昨年の「新入生のための基礎ゼミ」では、一緒に教壇に立ちました。学生に向け「私は”つんく”と同じ病気になりました。声は失いましたが、大丈夫です。楽器のことでわからないことがあったらいつでも来てください。」と仰り、声が出なくても意思疎通ができる特殊で優秀な機械を作ることに希望を持っておられたことを思い出します。

病は残酷であり、神様はなぜ素晴らしい方を天に呼び寄せてしまわれたのでしょう。

数年前、当時ウィーンのベーゼンドルファー社のトップマネージャーのオスさんが来日した折、国立音大をご案内し、森先生をご紹介したことがあります。珈琲を飲みながら研究室で語らった1時間弱。

オスさんは、「プロフェッサーMORIのドイツ語は、ドイツ人のドイツ語よりもはるかに美しい!」と感嘆しておられました。上品な声で話される森先生の流暢なドイツ語、穏やかな声の日本語。
「声」やお話のリズムがその知的なお人柄そのものでした。

音響学会にお声をかけていただき、モーツァルトとその同時代の作品を演奏させていただいたこともありました。森先生は「素敵な同僚を紹介できて鼻が高かった」と冗談まじりに喜んでくださり、その後、「耳と聴覚」について研究発表されました。

私にとって「学会」参加はそのときが初めてのこと。専門的な分野の発表はチンプンカンプンのこともあったのですが、森先生の発表は素人の私にも明快なものでした。

「目や肩の疲れは自覚しやすいけれど、”耳”は自分で意識しないうちに、疲れがたまりやすい器官のひとつである。特に大音量が危険。」
耳の繊毛の拡大写真を示しながらの説得力のある発表に、愕然としました。

その日以来、「耳」の疲れを極力 ”自覚” するようにし、大音量には注意するようにしています。
楽器のこと、音響のこと、気さくに相談にのってくださっていた森先生のお声は、もう聴くことができません。

爽やかで美しい五月のそよぐ風とともに、天国に行かれた森先生。ご冥福を心よりお祈り申し上げます。

arima

コメント

  1. 久元祐子 より:

    黒瀬愛様
    コメントをありがとうございます。森先生のお従兄弟様からのコメントに感激しております。森先生は、皆の憧れの先生でした。
    トロイメライを弾いておられたのですね!ドイツ・ロマンの世界、穏やかでお優しい森先生にぴったりの曲ですね。これからトロイメライを弾く時、森先生のお優しいお声を思い出しながら弾かせていただきます。
    森先生のご冥福を心よりお祈りいたしております。

  2. 黒瀬愛 より:

    久元先生
    森太郎の従兄弟で黒瀬愛と申します。
    太郎とは同い年でした。
    私の母同士が姉妹でしたので、兄弟のように行き来し、現実を受け入れるのがつらいですが、
    太郎の事をこうして素晴らしく追悼してくださり、感激致しました。
    太郎は、よく、夕食後にトロイメライを弾いてくれました。トロイメライを弾いたら、どうか太郎を思い出してやってください。
    ありがとうございました。