オーケストラ・アンサンブル金沢@サントリーホール

1988年、岩城宏之氏によって設立されたオーケストラ・アンサンブル金沢。
先日、金沢でチラシを見て、サントリーホールに伺いました。

金沢駅の真ん前に聳え立つ石川県立音楽堂を本拠地として、定期公演、海外公演など年間約100公演を行っている室内オーケストラ。

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プログラムには、多くの助成・協賛企業、個人の方々のお名前と広告が並びます。
県・市・経済界の力が一つに結集すると、市民、県民の支えによって、文化の面でこれだけ大きなことを成しえるという成功例。

サントリーホールに集まった多くの関係者の皆さんの応援が、金沢の文化を支える原動力になっているかのように見えました。

今日の公演は、指揮、ソリスト、コンサートマスター、全てヨーロッパの音楽家。
前列真ん中付近で鑑賞したため、目に入ってくる主要メンバーは、西ヨーロッパの名手たち。金沢のオーケストラ定期を聞いている、というより外来オーケストラを聴きに来たような錯覚にとらわれました。

名匠ユベール・スザーン×OEK
「ジュノム」と「英雄」
と銘打った演奏会。変ホ長調のエネルギッシな音楽が、サントリーホールに鳴り渡るコンサートとなりました。

それに先立つ序曲は、「皇帝ティートの慈悲」ハ長調。一糸乱れず堂々たる名演で、モーツァルトを聴く歓びを感じた次第。
オランダ出身のスダーン氏は、指揮台も指揮棒も使わず、身体全体を揺らしながらメンバーに波動を送り、それに応えるコンサートミストレスのアビゲイル・ヤング女史が、これまた凄すぎる腕前でリードしていきます。イギリス出身ヤングさんのパワーと推進力は、後ろでおしとやかに弾く女性奏者の1000倍に及びそう。ミストレスなどと呼ぶ必要がないくらい、男性顔負けのエネルギーに圧倒されました。

そして対面で演奏する客演首席ヴィオラ、ダニイル・グリシン氏の音色の素晴らしいこと!左耳のピアス、トンガリ靴、スキンヘッドの貫禄で、ズボンのチャックを上げながらステージに登場。およそ古典とは縁遠い雰囲気なのですが、楽器から香る美しく柔らかく透明感のある音と変幻自在なテクニックには痺れました。

「ジュノム」のソリストを務めたリーズ・ドゥ・ラ・サール は、フランス若手女流ピアニスト。 パンフレットの愛くるしい姿で、ジュノム嬢とイメージを重ね合わせてこられた方も客席には多かったことでしょう。

実際ステージに現れた「ジュノム嬢」ことリーズさんは、もうひとまわり凄みのある風情。濃いアイメイク、腕の刺青、高くて細いピンヒール、ラメ入り黒パンタロン。鋭いタッチでスピーディに切っていく演奏でした。「Merci beaucoup.(ありがとう)」と客席に言ったあと、ドビュッシーの「亜麻色の髪の乙女」をアンコールに演奏。

ところで「ジュノム」と「英雄」は、どちらも変ホ長調という堂々とした響きを持つ調です。その中にあって、「ジュノム」の第2楽章、「英雄」の第2楽章「葬送行進曲」はどちらもその対極にあるハ短調をとっており、陰りと嘆きにあふれた緩徐楽章です。

けれど、今夜の演奏は、日本人のセンチメンタリズムに喝!を入れるかのごとく、間の美学や深い溜息より拍節感と回転力が前面にパワフルに迫ってくる演奏。

日本人はメソメソ泣くが、ヨーロッパ人はオイオイ泣く、という言葉が頭をよぎります。さすがに「元気に振りすぎ、強く弾きすぎ?!」と感じてしまったのは、私一人でしょうか。

あらゆる場面で、前向きのエネルギーを失わず、力強い自信とパワーに溢れた展開に、「感動」というより「感服」の一夜となりました。

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