プレクトラム交換

フランスの名工、マルク・デュコルネ氏制作のチェンバロを弾き始めて3年。少しずつ楽器が手に馴染んできました。最近は、バロックの楽譜をあれこれ広げ、新しいレパートリーに挑戦。

以前、知人のNさんから頂いたイギリスの作曲家、ダウランドのスコア。

「いつかチェンバロで弾かせていただきます!」と御礼を言いつつ、長いこと棚に眠っていたリュートの楽譜です。自粛時間ができたおかげで、日の目を見た音符たち!初めて見るメロディをつま弾く瞬間、その国の空気や風が伝わってくるようで、鍵盤という翼で旅をする感覚です。

ところで、ピアノ弾きは、調整・調律を信頼する技術者に任せて、弾くことに専念する人がほとんど。ところがハンガリーで教えていただいたジョルジュ・ナードル先生は、ご自分で弦の張替えなどをする方でした。「ピアニストも人任せにしないで、自分でそれくらいできなければいけない」と言われ、細かくその方法を教えてくださいました。けれど先生の手を見ると指先から血が滲んでいたり・・・。けっきょく帰国して以来、調律・調整の仕事は、調律師さんにお任せし、たまに狂いが激しい時などに弦の締め直しを自分でする程度。

そんなピアノ奏者と違い、チェンバロの世界は、ご自分で調整もする方がほとんど。盲目のチェンバリスト、武久源造さんは、自ら驚異的なスピードで水鳥の羽の軸を削り、プレクトラムを交換し、微細な音色の調整をしておられます。指の感覚がすべてを見通しているのでしょう。楽器と奏者が一体になる演奏の原点がそこにあるように思えます。

今日は、遅まきながら、デュコルネさんからいただいたお道具箱を取り出し、自分でチェンバロのプレクトラム交換をしました。

鋭利な刃物を使うのは、当初抵抗があったのですが、いつもしている料理の時の包丁と同じで、指を切らないよう注意すればよいこともわかってきました。

経年変化で薄くなったり折れてしまうプレクトラムを交換し、音色を調整し、調律をするのは、楽器との対話の時間。夜も更け、チェンバロはさらに典雅で豊かな音色を奏でてくれました。

コメント