ルドルフ・ブッフビンダー@東京・春・音楽祭

東京・春・音楽祭が3月15日に開幕。

7夜にわたって行われたルドルフ・ブッフビンダー氏のベートーヴェン ピアノ・ソナタ全曲演奏会のうち3回を東京文化会館小ホールで聴くことができ、後半2回はストリーミングで鑑賞。

初日(3月15日)は、前半1,10,13番、後半4、14番《月光》、アンコール18番2楽章
第3夜(3月17日)は前半3,19、26番《告別》、後半7、28番、アンコール《悲愴》3楽章
第4夜(3月19日)は前半6,24、16番、後半29番《ハンマークラヴィーア》、アンコール18番4楽章
第6夜(3月21日)前半11、20,8番《悲愴》、後半25、21番《ワルトシュタイン》、アンコール《テンペスト》3楽章
最終日(3月22日)休憩無で、最後の3つのソナタ、アンコールにシューベルト即興曲op.90-4

という組み合わせ。

これまで何度もベートーヴェンソナタ全曲演奏を行ってきたウィーンの人気ピアニスト。32曲を暗譜で弾き切るエネルギーと集中力に敬服の一言でした。
書で言えば「草書」。流れる水(時に激流)のようなテンポ感は、おそらく何千回、何万回繰り返されてきた中で生まれた世界なのでしょう。
まどろっこしい、と思う時間が一度たりともありませんでした。年齢を重ねるとテンポがゆっくりになる、という常識はブッフビンダー氏によって見事にひっくり返された次第。

むしろ、あまりに速すぎて「え?今なんて言った?」と聞きなおしたくなるようなパッサージュや、あまりに無造作すぎて「え?いくらなんでも・・・」と思う瞬間があったのも正直なところ。新幹線「のぞみ」から駅の名前を読みとることが不可能なように、あともうほんの少しの間がほしい。。。なんて感じることもありました。

知り尽くした道を散歩に出るような自然さで始め、少々石に躓いてもそのままスキップし続けるかのよう。落とし穴の場所も曲がり角も標識もすべて熟知した自信のなせる遊び心。1夜のアンコールで演奏されたスケルツォの見事さは、若者全員がひれ伏すようなエンジン全開のスピード感。

所要時間50分と言われるハンマークラヴィーアを35分で。生まれて初めて生「ハンマークラヴィーア」を聞いた親友は、演奏が始まってすぐ涙と鼻血が出るほど感動し「こんな名曲と思わなかった」とハンカチを握ったまま恍惚状態。

推進力、エネルギー、そして緩徐楽章の味わい、音色の多彩さ、ユーモア、ロマン、、、。ベートーヴェンの姿とブッフビンダー氏の姿が重なって見えました。
77歳は、日本では後期高齢者という位置づけの年齢ですが、高貴高齢者、幸喜高齢者という漢字にしたいような矍鑠たる弾き姿。私達聴衆は大きな拍手で讃えました。

普通の人が弾いたら9時半は過ぎるだろうと思われるプログラムですが、アンコールも入れて8時50分頃には終演。長蛇の列のサイン会をこなす余力にも驚愕。

温かい笑顔が印象的なブッフビンダーさんから頂いたこのサインも草書?!

どこがRでどこがBなのか、なんて考えるようじゃいけないのね。

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