藤沢リラ・ホール「ピアニスト・モーツァルトの肖像」

藤沢リラ・ホールで、「ピアニスト・モーツァルトの肖像」と題するレクチャーコンサートが開催され、ピアノとトークでモーツァルトと同時代の曲を弾かせていただきました。(主催:ヤマハミュージック横浜) 
、そして、同時代のライバル、クレメンティや、生涯を通して尊敬してやまなかったヨハン・クリスティアン・バッハのピアノ・ソナタ ト長調 作品5の3 も弾かせていただきました。

モーツァルトの「ロンドンの音楽帳」から ト短調 K15pは、8歳のとき、ロンドンで作曲された秀作です。でも、とても8歳の子供の作品とは思えない出来映えで、ト短調の緊迫感が十分に生かされています。この小品には、既に後年の名作の片鱗が垣間見えます。
モーツァルトのト短調の作品といえば、晩年の名作、ト短調K550の交響曲、また青春の息吹に溢れるK183の交響曲があります。
この1月のモーツァルト生誕250年のザルツブルクでの演奏会でもアーノンクールがとりあげ、ト短調という死と結びつく曲をとりあげたことに対して、意外性と彼の斬新なメッセージが話題になりました。
モーツァルトの短調の世界は、のちのベートーヴェンなどもそのドラマ性、ロマン性を愛し、ニ短調のコンチェルトでは、カデンツまで書いています。
モーツァルトのピアノ曲では、よく続けて演奏されるハ短調のファンタジーとソナタがよく知られていますが、この8歳の時の作品には、これらの作品の一節がときどき顔を覗かせます。
天才としての萌芽が、すでに8歳にして見える、ということでしょうか。この曲を見たレオポルトは、神様が後世に残る才能を授けたのは、自分ではなく息子であることを確信したかもしれません。その後、音楽家としての最高の教育を息子に仕込み、自分の出世をあきらめてまで息子の人生に賭けたと言ってよいでしょう。
息子に「お金」「お金」と口うるさい手紙を書き、恋に落ちた息子をたしなめ、結婚に反対し、とやかく言うレオポルトからアマデウスの心は離れていきますが、このレオポルトなしには、モーツァルトの天才は決して花咲くことはなかったでしょう。
今回は、K310のイ短調をメインプログラムとして、最後に弾かせていただきましたが、この曲も短調。旅先で最愛のお母さんを失ったころに書かれたもので、第1楽章のせつないほどの悲壮感や3楽章の不安感など、弾いていても胸が痛みます。この曲でお客様とお別れするのは、とても寂しくなってしまうので、同じイ短調なのに、モーツァルトの曲の中で最も元気なトルコマーチで終わらせていただきました。
お世話になりましたスタッフのみなさまとピアノの前で。
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コンサート終了後、連れて行っていただいた親子丼が絶品で、これまでの私の食いしん坊人生で最高の親子丼でした。
モーツァルト親子は、一つの丼の中におさまることはなかったけれど、きっと天国で今頃、「パパ、お葬式に行かなくてごめんね。」「いや、わしも口うるさくおまえに言い過ぎた」というような会話が聞こえているといいなぁ。。。と思っています。

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