ベーゼンドルファー・セレクション

ウィーン市内のホテルから車で1時間ほどのノイシュタットに、ベーゼンドルファーの工場があります。

10年ほど前、訪れて以来の訪問です。
ベーゼンドルファーは、スプルースなど原材を、自然乾燥で5年、乾燥室で半年、という具合にゆっくりと、じっくりと熟成させる趣きで楽器を作っていきます。

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ゆったりと大事に作られていくピアノは、人間の感覚と職人技によって出来上がる特級品です。この部分がなくなったらベーゼンドルファーではなくなってしまう、というこだわりがあり、この工程は、機械化されることがあってはならないでしょう。
ほかのメーカーのように「企業秘密」というものがないそうで、
「見てもマネできないから、すべて見てください」
という自信が感じられます。
3代にわたってこの工場で働いている、という職人さんもいて歴史と伝統を感じるピアノ工場です。

それでも10年前にはなかったコンピュータが今回2台導入されていました。それに伴ってリストラも行われたと聞き、複雑な気持ちになりましたが、この工程は正確を期した方が良いという判断のもとに導入されたのだそうです。
1ミリやっては、削り、またやり直してまた1ミリ、という能率の悪さが改善されたということでした。
ただピアノの王様、インペリアルだけは、大きくてその機械に入らないとか。今でも人の手によってつくられている別格のベーゼンドルファーの中のベーゼンドルファーです。

工場見学のあとセレクションルームに移動。
まだ製品番号がついていない工場番号のみのピアノ3台、それにすでに一度市場に出た製品1台の、合わせて4台から選びました。
人の手によって作られているせいで、一台、一台の個性の違いもまた大きく、選びがいがあるというものです。
音楽の伴侶を決めるお見合いの一瞬です。
軽く浅めで弾き心地の楽な楽器、黒い森を思わせる渋く固めの音の楽器、温かく深い音色の楽器。
弾く作曲家によって楽器を使い分ける、というわけにはいかなので、いくつか自分のレパートリーを弾きながら、その接点を結び、自分にぴったりとくる1台を選びました。

偶然ですが、選んだピアノは、インペリアルの200番。
200台めのインペリアルということだそうで、4月に日本にやってくるお嫁さんを迎える新郎の?!気分です。
無事に届きますように祈りながら、マイスターと最後の調整についての要望と打ち合わせをさせていただき、工場をあとにしました。

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