若林顕先生・特別レッスン

国立音楽大学で、若林顕先生の特別レッスンを3時間ほど聴講させていただきました。
大学では、ヨーロッパから来日される先生をはじめ、様々な公開レッスンが行われています。たくさんの学生がこのようなレッスンを受けることができるのは、国立音大ならではでしょう。
それぞれの音楽感や人となり、そして言葉の使い方など、レッスンの進め方はまちまちで、作品へのアプローチもまったく異なります。公開レッスンは、演奏会とはまた違った意味で、ピアニストの人間性が浮き上彫りになる時間です。

若林先生は、まず、全体を通して学生に演奏させ、その後、丁寧にひとつひとつのフレーズを仕上げていかれる誠実なレッスンでした。派手な演出や演奏効果を狙うような表面的なアプローチではなく、正面からベートーヴェンに向かっておられるように感じました。
取り上げられたのは、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ、13番と31番です。

「解き放たれた精神を!」
「音のつながりにゆとりや幅をもたせて、中でふくらむように」
「左手は右手に直接的に向かうのではなく、環境をつくるような感じで」
などなど
実直な言葉で指導が進みます。

言葉より雄弁なご自身の音や響きから、不思議にドイツの自然の姿を彷彿とさせる気がしました。
山々に遊ぶときに感じる風、小川が流れるせせらぎの音、森のざわめきなど。
ある曲の一部分をどう弾くかという細部ではなく、もっと大きな何かを感じとることができました。
そのような受け止め方を、多くの学生にも感じてほしい。
そうであれば、貴重な時間となったことでしょう。
私自身、とても贅沢な時間を過ごさせていただきました。

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