テュルクが語った音律の話

東川清一先生の講演を聴きました。
東川先生は、テュルク「クラヴィーア教本」、エマヌエル・バッハ「正しいピアノ奏法 上・下」の訳者として知られた音楽学者でいらっしゃいます。
国立音楽大学にいらしたのは20年ほどとのことですが、今回、演奏研究所の所員として参加され、今日は、先生がご担当の講演でした。
今回の東川先生は、ある1点に絞られてお話しされました。
それは、音律のお話です。
テュルクの注の中で簡単に述べられている音律に焦点を当てられ、現代のソルフェージュ教育への警鐘も含めたお話でした。

「歌えない者は弾いてはいけない」
というテュルクの言葉を紹介され、その「歌う」という行為も、本当の耳を持っている者 ― 音律の違いを感じ取れる耳を持った者によって初めて可能になるとおっしゃいます。
ピアノを弾く人間は、ソのシャープとラのフラットは同じ鍵盤で弾いているので同じ音程と思ってしまいがちですが、音にはもっと微細な高低があり、それを感じ取って歌い分けることができなければならない、というお話でした。

イタリア古楽を聴くとき、宇宙のバランスの中に身を置くような不思議な心地良さを感じますが、それは、この音程のとり方からくるのかも知れません。
ピアノを弾くときもその感覚を持ち、無機質で機械的な演奏から免れるようにすることが求められるのであり、それは、その音律感覚が健在であったモーツァルトの作品を弾くときにも求められるのではないかと感じました。
「モーツァルト」とは直接結びつかないように見えながら、実はとても大切なことを思い起こさせるお話でした。
お話は難解。数字の羅列やこまかな記号の連続で、ついてこれない学生たちが、次々コックリを始めたのは致し方ないかも知れませんが、この濃密な講義を咀嚼し、わかりやすく語るにはどのようにすればいいのだろうといろいろ考えさせられるひとときでした。

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