東京文化会館リサイタル

夜、7時から、東京文化会館で、リサイタルを開催させていただきました。
朝9時半。1829年の方の搬入と同時に、現代のインペリアルの調律開始。
ベーゼンドルファーの映像記録のスタッフのみなさんもカメラを回し始めます。

午後1時半から、楽器の位置決めです。
183歳と20歳。2人のベーゼンドルファーが、「俺をどっちに置くんだい?」という顔で見ています。
特におじいちゃまのほうは、置かれる場所によって、また客席の場所によって、全く違う響きになります。600人のホールのためにあるようなインペリアルは、会場とホールというバランスにおいては全く問題がないのですが、シューベルティアーデの頃、50人くらいで聴いていたであろう楽器の方は位置決めに苦労します。50人規模のホールでインペリアルを弾くと音の洪水になってしまうのですが・・・・。

今回のプロジェクトは、「ベーゼンドルファー 今、昔」。
「昔」だけ、あるいは「今」だけなら、そういうホールを選ぶことができたでのですが、「今、昔」なので、どちらかの間でバランスをとらなければなりません。
諏訪では、お客様を100人に限定。ステージに乗っていただき、間近で聴いていただきました。
届かないのでは・・・という心配はほとんどなく、楽な気持ちで演奏。
けれど東京文化会館の600人のお客様全員にステージに乗っていただくことは不可能です。あとは、高い天井、空間のチカラを信じ、音を出していくほかはありません。
「昔」の方の雑音、きしみ、不安定さ・・・それらが奏者には気になるものです。「客席では大丈夫」という声を励みに、リハーサルの時間が過ぎていきます。「昔」の楽器のそういった要素を取り除いていき、ストレスフリーに限りなく近づいてきた現代ピアノへの進歩と、183年の時の流れを、改めて感じたひとときでした。

プログラムは、
シューベルト:即興曲 Op.142、第1番 ヘ短調、第2番 変イ長調、第3番 変ロ長調、第4番 ヘ短調、
モーツァルト:ピアノ・ソナタ 変ロ長調 KV333
を、前半、1829年で弾きました。
15分の休憩をはさみ、
シェーンベルク :6つの小さなピアノ曲 作品19
ベートーヴェン :ピアノ・ソナタ 第31番 変イ長調 作品110
をインペリアルで演奏しました。

120911-1

前半、ステージからときどき感じたのは、お客様の「耳」の鋭敏さでした。
大音量に慣れた現代、頼んでもいないのにBGMが流れるお店の数々、マイクの音が当たり前の世の中。
そんな中にあって、静けさの中、183年前の響きにじっと耳を傾けて聴いてくださるお客様の「気」を感じることができました。
そんな「気」を感じながら、「昔」を弾かせていただきました。

お出かけくださいましたみなさま、本当にありがとうございました。

コメント