ピアノ選び

2014-03-25-14-15-17
今日は、「選ぶ」ことが重なった日でした。
午前中は、演奏会で自分が弾くスタインウェイ、2台から1台を。
午後は、知人がホール用に購入するベーゼンドルファー、3台から2台を。
スタインウェイは、F1のレーシングカーにもたとえられる性能を誇る楽器ですが、長年の使用で何度かオーバーホールが繰り返されると、それぞれの個性が微妙に変化してきます。
数年前に深みを出して絶好調だったものが、くぐもった響きになってしまったり、逆に金属的な感じだった楽器が、ほどよい輝きのある音になったり・・・・。
もしも会場に1台しかなければ、好むと好まざるとにかかわらず、昔の政略結婚のように、嫁ぐしかありません。
けれど選ぶ機会をいただけるときには、コンサートの「相棒」を、弾くプログラムに合わせ自分で選びます。
鍵盤の「がたつき」やピンの調整など、歴史的楽器の調整をまじかに見てきて、現代ピアノの場合、何時間でどこまで直るか、という勘が少しきくようになってきたかもしれません。けっきょく、音の立ち上がりが良く輝きのあるほうの1台を選びました。偶然、アンドラーシュ・シフさんも先日の演奏会でそちらの楽器を選ばれたと聞きました。
午後からはベーゼンドルファー選びです。新品3台を前にすると生まれたばかりの三つ子ちゃんを前にしているような愛おしい気持ちになります。
見た目は、形も大きさも色もまったく同じなのに、弾いてみると、人間同様、性格がまったく違います。おしとやかな子、がっしりと芯のある子、エネルギッシュな子、それぞれに良さがあり、選ぶというのはなかなか難しい作業です。弾いているうちに情も移ってくるのです。
これまで何度かホールに入るピアノの選定をさせていただいたことがありますが、私の好みだけでなく、将来的に多くの人が弾かれることを想定して”気難しい”ピアノは選ばないようにしています。素直な楽器、いい木を使い、まっすぐに音が伸びていく感じの楽器は、シーズニングのあと、長く演奏されていく中で、上手に「育って」いきます。
19世紀に比べ、いい木材は少なくなっていると言います。以前は、節が入ってしまっている箇所は、捨ててしまっていたそうですが、現在は、そういうところも使い、あとはオーバーホールしながら、メンテナンスの技術で保持していくそうです。それでも手作り作業の多いメーカーほど、微妙に木の当たり外れがあるように思うのです。10年たって「当たり」だった、と思えるものを選ぶのが「選定」。責任重大です。
「選ぶ」という作業、実はとっても苦手です。ひとつを選ぶということは、どれかをあきらめる、ということ。欲張りな人間、あきらめの悪い人間にとっては、「選ぶ」ことは、かなりの思い切りと決断力とエネルギーを要します。
無事選び終わって、ふぅっと肩の荷をおろした気分で、三つ子ちゃんの元を離れましたが、「どうして私を選ばなかったの?」と一人がこっちを向いているような?!気がしました。

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