「アルゲリッチ 私こそ、音楽!」

映画「アルゲリッチ 私こそ、音楽!」の試写会に伺いました。
監督は、アルゲリッチの三女、ステファニー・アルゲリッチ。
マルタ・アルゲリッチの素顔を、娘の視点で描いた映画です。

アルゲリッチが弾く、鬼気迫るプロコフィエフ、夢を彷徨うようなシューマン、きらめくようなラヴェル・・・。
彼女の音楽は、他の人には決して真似のできない特別な音と流れを持っています。1音聴けばアルゲリッチ!とわかるその個性は、他の追随を許さないくらい群を抜いています。

あるときは、限りなく優しく愛情に満ちた、たゆたう水のようでもあり、
あるときは、獲物を狙う雌豹のような鋭さで迫り、
あるときは、溶岩の激流となり、聴く者を恐怖に突き落とすほど。

取材嫌い、と言われますが、
「言葉では言えない」という言葉が
映画の中で多く語られました。

彼女にとっておそらく音楽は、言葉よりずっと雄弁なのでしょう。

女という性を持って生まれ、直観で突き進むエネルギーと複雑でナイーブで繊細な感覚とロマンティックな情念で直に音楽に向かっていくそのアプローチは、学者肌の知的なブレンデルや包み込むような包容力を持ったアラウとは対照的で、好き嫌いが分かれるピアニストですが、ひとたび彼女の魅力にとりつかれた音楽家は、たとえ別れても「マルタが大好き」だそうです。

父の違う娘を3人生み、成長した娘たちそれぞれの思いが映画の中で語られます。
一番「子供」の顔をしたマルタが、娘たちとペディキュアを塗りながら無邪気に語りあう場面は、彼女たちとの関係をそのまま示しているかのようでした。

ステージに出る前のナーバスな表情、起きたばかりの少女のような顔、質問にうまく答えられず困り切った顔をする眼差し。
どれも音楽が生まれる源であり、ピアニスト、アルゲリッチの真実なのでしょう。

ファン必見の映画、9月27日Bunkamuraなどでロードショー!

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