バレンボイムとシュターツカペレ・ベルリン

「あなたは歴史の目撃者となる」というキャッチフレーズの東芝グランドコンサート。
ダニエル・バレンボイムとシュターツカペレ・ベルリン(ベルリン国立歌劇場管弦楽団)によるブルックナー・全曲演奏会、サントリーホールの最終日を聴きました。今年が没後120年のブルックナー。その交響曲全曲を10日間でほぼ連日振り続け、なおかつ前半にモーツァルトのピアノ協奏曲を弾き振りという驚異的なチクルス。
最終日の今日のためにバレンボイムが選んだ曲目は、モーツァルト第23番ピアノ協奏曲とブルックナーの交響曲第9番でした。
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ピアニストとしてのバレンボイムは、ずいぶん前にバッハを聴いたのが最後です。
その恐るべき精神力、体力、知力に感服し、その美音は今も記憶に残っています。
今宵は黒いタートルネックふうの衣装で現れ、遊ぶようにモーツァルトを弾き始めたバレンボイム。長年弾いてきて、寝てても弾けるパッサージュをざっくりと弾き飛ばすようなところもあり、雑なアルペジオが濁りを生んだり、という場面も見受けられました。しかし大胆なデュナーミクとはっきりとした造形美の世界はさすが!
モーツァルトを単に綺麗な音でまとめるのではなく、ときには破裂音まで炸裂させドラマとして表現。
「私はこう思う」を音にできるユダヤの巨匠です。アンコールにKV330の第2楽章、さらに第3楽章。
後半のブルックナーでもIQの高さがはっきりと示され、構築されていきます。妥協を許さずリハーサルを重ねきたその時間の重さを感じました。
ただ、今日の演奏に関しては、どこか冷めたところがあるように思えたのは私だけでしょうか。前から2列目で見た限り、煮えたぎるような熱さは、指揮台から見えてこなかったように思えます。ブルックナーの9番が持つ、なりふり構わず魂が揺り動かされるような慟哭には至らなかったように感じました。
全10日のスケジュールをすべて聞いた、という熱狂的バレンボイムファンの女性が「今日のバレンボイムさん、体調がいまひとつよ。風邪ひいてるらしいの。」と言っているのが聞こえました。真偽のほどはわかりませんが、演奏中、左ポケットからハンカチを何度も出して鼻をかんだり、汗を拭いたり・・・という動作が繰り返されました。
けれどそんなことは関係なく、「歴史の目撃者」としてスタンディングオーベーションで巨匠を称える聴衆の長い長い拍手が続きました。

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