バドゥーラ=スコダ夫妻のモーツァルト

学生の頃から愛読してきた「モーツァルト演奏法と解釈」
エヴァ・バドゥーラ・スコダ、 パウル・バドゥーラ・スコダ (著), 渡辺 護 (訳) 。
先月、今井顕先生監訳、堀朋平、西田紘子両氏による訳で、音楽之友社より新版が出版されました。
待ちに待った新版登場です。「モーツァルト演奏法と解釈」の原著は、1957年刊行。今から60年前のことです。その間、様々にモーツァルト研究が進んできました。それら最新の研究結果も盛り込まれ、ボリュームもアップ。内容も全面的に刷新され、譜例も充実しています。
モーツァルトの響き、デュナーミク(強弱)、テンポとリズムの問題、装飾音、カデンツァとアインガング、オーケストラとの共奏など実際に演奏する人に向けて、スコダ氏の豊富な経験に裏付けられた具体的なアドバイスが満載です。
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バドゥーラ・スコダ氏は、今は亡きフリードリッヒ・グルダ、現在も活躍中のイェルク・デームス氏とともに、ウィーン三羽烏のお一人です。昨年、リンツ近郊のKremsegg博物館でたくさんのウィーンの楽器を弾かせていただいた日のことを思い出します。そこには、スコダ氏が収集された楽器も多く展示されていました。そして博物館の最上階に、グルダ氏を偲ぶ部屋が作られていました。グルダ氏愛用のコートが展示され、多くの録音を楽しむリスニングコーナーもありました。
3氏の個性は全く異なります。当然音楽解釈も細かなところでは、それぞれに違いがあるのは当然のこと。デームス氏が「こういうことをしてはいけない」ということが「このように弾きましょう」とスコダ氏の本に出てきたり、スコダ氏のお弟子さんである今井顕先生の出されたモーツァルト・ピアノ・ソナタ全集の指使いは、デームス氏の指使いとは全く異なります。
C.P.E.バッハの「正しいクラヴィーア奏法」とテュルクの「クラヴィーア奏法」に逆のことが書いてあったり、
ウィーン原典版の校訂者が版を重ねた際に異なる解釈を記載したり・・・ということもあるのが音楽の世界の面白いところ。
学会は、どちらが正しいか、を求めて議論が行われますが、演奏の世界における「演奏法」や「解釈」というものは、一つではありません。「正解」を求めて右往左往するのではなく、基本を知った上で、確信を持ったそれぞれの解釈をし、演奏につなげる姿勢を作っていけるかどうかが問われるのかもしれません。
1927年生まれのスコダ氏は、現在88歳。今年10月6日のお誕生日で89歳になられます。秋の来日が楽しみです。

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