兵庫県立西宮高校音楽科の皆さんへ④

卒業式まじかとなりました。

3年生のみなさんにとっては、最後の高校生活ですね。新しいステップに向かい、希望に満ちた毎日を送っておられることでしょう。

皆さんにいただいた質問の続きです。

Q:どんな舞台のピアノでも機転を利かせて演奏するにはどのようにしたらよいのですか?

A:この質問は、ピアノ科独特の質問ですよね。声楽科は常に自分の身体が楽器ですし、管楽器、弦楽器の皆さんも普段から使い慣れた楽器で舞台に臨んでおられるでしょう。ピアノに限り、ほとんどの場合、自分の楽器を持ち運ぶのではなく、そこに置いてある楽器で一発勝負の演奏をするわけです。

質問をくださった生徒さんもこれまでたくさんのピアノを舞台で弾いてこられたことでしょう。「今日のは硬くて弾きにくかった」「今日のは鍵盤が重く感じた」など苦労した経験があるのではないでしょうか。鍵盤の深さ1ミリ、重さ1グラムも何千回、何万回のタッチとなると全体で大きく印象が変わってくるからです。

それでも現代のピアノはかなり均一化されており、モーツァルト時代の楽器に比べれば、個体差は少ないほうと言ってもよいかもしれません。鍵盤楽器の変遷の時期に活躍したモーツァルトは、当時のあらゆる種類の鍵盤楽器をこなす感覚を持ち、おそろしく順応性があった器用な人だったと思われます。

要は、なるべく異なる種類の鍵盤楽器に触れ、様々な空間で弾く経験を積み重ねることこそが、「どんなピアノにも機転を利かせることができる」ようになる道と言えるでしょう。

楽器店では、様々な楽器の試弾の機会を提供しています。国立音大では毎週水曜日に楽器学資料館で歴史的楽器の試弾可能楽器を1台公開しています。そんな機会を積極的に利用して、あらゆる楽器を弾きたおす?!うちに、自然とピアノの個性に対しての順応力がついていくのではないかと思います。特に、異なる種類の鍵盤楽器は、音を出す原理も違っています。つついて音が出る、はじいて音が出る、空気を送って音を出す、、、そんな楽器の演奏体験をすることで新鮮な感覚が指を通じて入ってきます。

ハンマーで打鍵する仕組みが確立したフォルテピアノになってからでも、初期の頃の楽器は、1台1台の個性が大きく違います。

楽器は生きています。人と同じように、性格があり、その日の調子があり、個性があります。その楽器の一番の美点を引き出し、自分もその楽器と一体となって、声のように表現できることを目指していきましょう。私も日々、そういう経験を積み重ねていきたいと思っています。

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