ローエングリーン@東京文化会館

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子供のころ、大好きな叔父が、姪の私に譲ってくれた一冊の本がありました。

ワーグナーの「ベートーヴェン詣」とタイトルが書かれているドイツ語の本です。びっしり書き込みがあり、この本にのめり込んだ叔父の情熱が伝わってくる1冊です。叔父はそれ以来、音楽の道に進む私をずっと応援し続けてくれた恩人です。


 その後、「トリスタンとイゾルデ」に痺れ、自分でピアノリダクションのスコアを弾いたり、優れた歌い手さんの伴奏をさせてもらい、ワーグナーの世界に引き込まれていきました。


 今日は、二期会(1979年以来2度目の公演)の「ローエングリーン」を鑑賞。久しぶりにワーグナー・ワールドにどっぷり浸った4時間でした。


 小春日和の日曜日、ワクワクして上野に。春ももうすぐそこまで来ている感じです。東京文化会館の入り口で、二期会常務理事の黒田博先生にお会いしました。今年のニューイヤーオペラコンサートでモーツァルト・オンステージを披露されたばかり。黒田先生は国立音大の教授でもあり、今月27日、28日には岡山、神戸とご一緒し、モーツァルトのアリアを伴奏させていただく予定です。そして今日のタイトル・ロールの大役、福井敬先生とも16日、17日に、立川、安曇野でご一緒いたします。現役第一線の舞台と大学教授としての多忙な日常を両立されておられる姿に脱帽です。

 
 今日の公演は、準・メルクル先生の指揮、オーケストラは東京都交響楽団。冒頭の「前奏曲」から透明で官能的な弦の弱音が魔法のように空気に漂い、非日常の世界に。トレモロで奏でられる美音が感覚に直接訴えかけてきます。


第1幕の「エルザの夢」のシーンは、先月急逝された礒山雅先生のお気に入りの場面で、何度も演奏会で伴奏させていただいたことがあります。演奏会の記憶が蘇り胸が詰まりました。ワーグナーが「エルザの夢」に使った変イ長調は、この曲の初演で指揮をしたリストも「愛の夢」で使っています。ショパンも愛した変イ長調は、ロマンティックな想いがハーモニーからも伝わる響きです。福井先生演じるローエングリーンには光に満ちたイ長調、悪役テルラムントは嬰ヘ短調。綿密に考え抜かれた心理劇です。


 福井先生が輝かしく気品に満ちた、そして悩み苦しむローエングリーンを熱演。エルザ役の林正子さんとの愛のシーン、葛藤のシーンは圧巻でした。

 演出は深作健太氏。時空を超えた事象が重層的に織りなす不思議な舞台でした。青年時代のローエングリーン(丸山敦史さん)が同時に立っていたり、この曲を愛したルートヴィッヒ二世の肖像画が使われたり、ナチスを思わせる軍勢だったり、果ては、有名な結婚行進曲でルイ14世(太陽王)スタイルでバロックダンスが踊られたり、ヴォータンを思わせる出で立ちのオルトルートが看護婦になったり・・・。


 ルートヴィッヒ二世がこの曲に耽溺したノイシュバンシュタイン城、シュタルンベルク湖畔に立つ赤い十字架など、旅したときの記憶の
風景なども折り重なったワーグナー体験となりました。

帰宅し、久しぶりにワーグナーの本を手に取り、亡き叔父と交信。濃密な一日でした。

 

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