Bist du bei mir

音楽学の礒山雅先生が、2月22日の早朝、天国に旅立たれました。享年71歳。
バッハ、モーツァルト、ヴァーグナー・・・。先生のコンサートで弾かせていただいた曲は数え切れません。心からの感謝を捧げ、ご冥福をお祈り申し上げます。

音楽を愛し、音楽に涙し、音楽に真摯に向き合う先生のお姿から多くのことを教えていただきました。
音楽学権威のお立場に甘んじることなく、学ぶ精神は青年のまま。常に胸ポケットにラテン語の単語帳を忍ばせておられたり、「宗教に関してはまだまだ勉強しないとわからないことがたくさんある」と思索を深めておられるところでした。

最近、国際基督教大学に博士論文を提出されたばかり。
3月の演奏会のあとに皆でお祝いしましょう!と盛り上がっていた矢先のことで、私たち演奏家の衝撃と悲しみの波が広がっています。

2礒山先生

舞台で司会をされるときには、舞台袖ではなく、客席の前列一番左の席から登場されてマイクを握られました。ステージと客席の懸け橋であり、先生のお言葉によって音楽が身近になった愛好家の方は多いことでしょう。お話やインタビュー・コーナーがあっても、時間通りにピッタリ終わる、という演奏会が多かったのはラジオ番組 FM「古楽の楽しみ」を長く担当されておられたせいかもしれません。

1礒山先生

終演後も、名残を惜しむお客様たちが、先生の回りに集まってこられることもしばしば。

i礒山先生3

「楽しい時間は早く過ぎる。つまらない時間はゆっくり過ぎる。」と仰り、
密度の濃い時間、感動する瞬間、新しい発見のある挑戦を大事にされていました。
時間藝術としての音楽、美学について、教えていただいた様々なことが心に残っています。

そして自己顕示欲的な演奏や作品を嫌い、謙虚に純粋に音楽に向き合うことを常に要求される方でした。

打ち上げの席順はいつも「阿弥陀くじ」。うまくいった演奏会のときには、特にご機嫌で、お好きなワインを「ここでやめる理由が見つからない」と杯を重ねておられた先生。礒山先生を中心に演奏仲間とともに過ごした楽しい時間が蘇ります。

昨年秋、新しくペットになったばかりのワンちゃんのお話をお聞きしました。なんとバッハと同じ誕生日(3月21日)生まれのマルチーズで「運命を感じた!」とのこと。バッハの愛妻、マグダレーナを略して「レーナ」と名付けられたそうです。

《アンナ・マクダレーナ・バッハのためのクラヴィーア小曲集の中の1曲、 Bist du bei mir《あなたがそばにいれば》BWV508 は、先生のお好きな曲でした。
 
「 あなたがそばにいれば、私は喜びのうちに、死と安らぎへ向かえます。
私の最期の日、愛するあなたの手で、この瞳が閉ざされるならどんなに幸せでしょう。」

美しくお優しい、最愛の奥様のおそばで天国に向かわれた礒山先生。
天国でたくさんの作曲家に出会い、勉強を続けていかれるに違いありません。私達も先生の教えを胸に刻み、天国で聴いてくださる先生に恥ずかしくない演奏ができるよう、力を尽くしてまいります。
どうぞ見守ってください。

コメント