兵士の物語

「ストラヴィンスキーの新古典主義」について作曲家、森垣桂一先生の講演をお聴きしました。新しい演劇・音楽空間としての舞台芸術を創造したストラヴィンスキーの「兵士の物語」をとりあげ、その単純に見えて実は大変凝った音楽づくりがされていることをわかりやすく解説くださいました。音楽語法の要素をモチーフ、調、リズム、反復・変奏、主題のコンビネーションなどに分解していくことにより、寄木細工のように組み合わされた個々の音符がすっきりと見えてきます。

1782年に生まれ、88歳の長い音楽人生を歩んだストラヴィンスキー。その間の大きな作風の変化から、カメレオンのような作曲家とも呼ばれますが、1913年の「春の祭典」からたった5年後、新古典主義の「兵士の物語」を作曲します。 1918年に発表された「兵士の物語」は、2部からなるバレーで、演奏者と演技者と朗読者がそれぞれ密接に連動し、音楽の中に演劇的な要素を含んだ作品です。 ワーグナーなどのグランドオペラに対するアンチテーゼとして旅回り的なオープンスペースでの小編成スタイルを想定していますが、その理由として「出版社からの支払いが途絶え、お金に困ったせいもあり、小編成になったのでは?」という先生のご意見です。

今日は、ストラヴィンスキー自身の手でクラリネット、ヴァイオリン、ピアノのためのトリオとして編曲された「難曲」が、大和田智彦さん、七海仁美さん、井上郷子さんによって演奏されました。 演奏後、演奏困難な”変拍子”連続の理由について奏者も交え議論が行われました。  

メロディーを歌いたいのに変拍子のせいで歌えないのではないか?  
合わないリズムの連続から合う瞬間に変わるとき、快感と面白さがある!  
ストラヴィンスキーは、きっと”書く”ことを楽しんだ作曲家ではないだろうか。 etc.

ストラヴィンスキー自身が指揮できなくて、指揮できるように易しく書き直したバージョンがあるそうです。作曲するときと演奏の現場にいるときの違いから、そういうことが起こったのだろう・・・とのことでしたが、作曲家自身が指揮できないものを他人が指揮するのは至難の業と言えましょう。 そういえば、ラフマニノフもラフマニノフ自身のピアノコンチェルトを演奏するとき、楽譜の指示とは違うことをしています。「作曲するときと演奏するときではメンタリティーが違う」と本人も言っているそうですが、こちらのほうは驚異的なテンポで楽譜よりさらに難易度を高くして見事なヴィルトオジティーを披露しています。

コメント

  1. yuko より:

    けんさん
    コメントありがとうございます。
    けんさんがおっしゃるように、ラフマニノフのテンポは、凄まじいものがありますが、身長2メートルの巨体で難なくクリアしてしまうのが恐ろしいですね。
    でも、もしかしたら、ラフマニノフの内気さが、演奏の際の速いテンポの原因の一つでは?と思うこともあります。
    いずれにせよ、作曲家が思いを楽譜にした瞬間、それは一人歩きして他人に解釈され、新たに命を吹き込まれる宿命を持っているということですね。

  2. けんフロム神戸 より:

    ラフマニノフさんご自身の演奏って、本当にテンポ、速かったですね(笑)。抒情的な演奏に慣れていた耳にはびっくりでした。
    でも、作曲家って意外にそんなものなのかも知れませんね。ストラヴィンスキーさんの本人演奏のCDも確かにあっさりしてましたね(笑)。(マルケヴィッチさんのレコードが凄かった)
    ベートーヴェンもメトロノームができてから自身の作品に結構早いテンポをあてていましたね。
    わたしたちは楽譜から再現された音楽で、大きな感動を受けて、その次からは、楽譜を再現するのではなく、その感動を再現しようとして、より大げさな表現をしてしまうのかもしれません。