ベルクの音楽「リリカルな表現の記譜」

国立音大 研究所プロジェクト 楽譜を読むチカラ Part2。
昨年のPart1は、古典に焦点を当てバッハからベートーヴェンまで、ということで私はモーツァルトを担当させていただきました。今年は、ドビュッシーからウェーベルンまでという近現代の音楽に焦点があてられています。

今日は、土田英介さんがゲスト講師として招かれ、ウィーンの作曲家アルバン・ベルクが取り上げられ「歌心」とロマンティシズムの語法を切り口に、大変興味深いレクチャーが行われました。

「ため息」のモチーフとして2度下降の音型が多くの作曲家により使われてきたことの紹介で始まり、ヴィルヘルム・フリーデマン・バッハのハ短調のポロネーズやベートーヴェンの作品10-1、作品90の一部が演奏されました。懐の深い大バッハが息子フリーデマンの使った2度下降を真似て平均律クラヴィーア曲集のヘ短調を作った、という説には驚きました。

またシェーンベルクに師事する前のベルク初期の「7つの歌曲」から「ナイチンゲールの歌」の分析が行われ、ブラームスの歌曲「歌の調べの如く」との類似点が示されました。ピアノ伴奏パートが、8度上行したあと降りてくるというアルペジオの形が共通しており、歌は、5度上行が6度上行、7度上行と間隔を広げながらクライマッスに達する様が明快に示されました。

また声部が合流点を境に幹から枝分かれしていくことによって、いくらでも声部を増やしていくことができることをブラームスの4番のシンフォニーで説明。クラリネットソナタなどでも合流点からピアノが分かれることによって、単なる伴奏ではなく声部の一つとして展開していき、多重的になっていくことがわかりました。

また、すべての音に意味を置くベルクのピアノソナタなどにみられる手法を実際の譜面上で確認。
そして、最後にクラリネットとピアノのための4つの小品について詳細な解説が行われました。音程を広げても「ため息」のモチーフとしてベルクがとらえていたこと、何重にも張り巡らされている音の綾、クラリネットの音をピアノが受け継いだり、引っ張ったりする合わせの妙、非常に興奮していくところから時計の秒針のように無機的になっていくような時間芸術としての語法など、実に入念な準備とアナリーゼとともに、理論が展開されました。

それにも増して土田さんのピアノのなんと美しいこと!宇宙に放たれるような瞬間、血が沸き立つようなロマンティシズムなど、豊かな感性の中で「音」を扱い、音楽を創作しているからこそ生まれるピアノ演奏だと思いました。
クラリネットの松本健司さんがゲスト出演。松本さんは、国立音大出身で母校で教鞭をとりながら、N響のクラリネット奏者として活躍中です。以前、諏訪での演奏会のあと、焼き鳥屋さんでご一緒したことがありましたが、難曲を正確に見事に吹いておられました。

土田さんとは、20年くらい前、クラリネット奏者の友人と共に何度かご一緒したことがあります。そういえば、そのときもクラリネットの話で盛り上がりました。ロマンティックな感性とクラリネットの柔らかでしなやかな音色が、土田さんの中で豊かに響きあっているのではないかとあらためて思いました。

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