リベラル・アーツ

今日は、「音楽大学と教養教育」というセミナーが催され、「キャリア教育」について久保田慶一先生、「ビルドゥング(教養)教育」について京都大学の山名淳先生、「社会に必要とされる音楽家になる」というタイトルで大島路子先生がお話しされ、また参加者によるリレートークに参加させていただきました。

IT=Information Technology(情報技術)に代わり、ICT=Information and Communication Technology(情報通信技術)という言葉が多く使われるようになってきました。そして若い音楽家に求められる技術として音楽ICTを含めたポートフォリオ・キャリア形成(職業訓練)があげられる昨今、大学のカリキュラム、そしてシラバスの中でもそれらを取り入れていく必要に迫られています。

街角からCDショップが消えたり、玉石混交の音楽がYOU TUBEで溢れる時代、いかにICTを活用し、リスクを回避するか、という能力が問われますし、プロモーションのスキルなども必要になってきます。それらを在学時から身に着けていくことができるよう、学生の支援が行われています。社会という荒波にもまれる前にライフジャケットを着せてもらう、という保護された時代に現代の大学生は生きていることを感じました。

私が大学生だったころは、大学がそのような面倒を見てくれる時代でもなく、荒波にいきなり突き落とされるような卒業の仕方だったように思いますし、「キャリア支援」という言葉も最近になって初めて知りました。

また参加者の中から、菅野恵理子さんがアメリカの芸術教育に関する調査研究を発表され、ジュリアード音楽院がコロンビア大学と提携し、「リベラル・アーツ(一般教養)」科目の単位が取得できるようになっているシステムなどを発表されました。音楽社会人として基礎的な教養教育が重視されているからです。

「リベラル・アーツ」は、日本語で言うと「自由な学科」ということですが、その語源を今日のセミナーで教わりました。
もともと13世紀ヨーロッパで大学ができたときには、法学部、医学部、神学部が必須条件だったそうです。役人、医者、聖職者という職業人を育てる職業人教育であったわけです。そこに7自由学科が加わり、非職業教育が行われるようになったそうですが、その7つの学問が興味深いところです。代数、幾何、音楽、天文、論理、文法、修辞。職業として成り立ちにくい?!理論や数比を基にしている学問が主です。

もともとリベラル・アーツであった「音楽学」ですが、音楽大学となると逆に音楽が職業教育となり、それ以外の一般教養がリベラル・アーツということになります。

自分のことを振り返ってみると中学、高校でピアノ一筋だった生活から大学に入り、「西洋文学」や「美術史」など初めて触れる授業が面白くて仕方なかった記憶があります。自分の知らないことが山ほどあることを知り、新しいことを知ることは楽しいことでした。「キャリア支援」という課もなく、「リベラル・アーツ」という言葉も知らずに卒業してしまいましたが、好きな科目を好きなだけ学べる環境にあったことはありがたいことだったのかもしれません。今にして思えば、まだまだ学んでおきたかったことは限りありませんが、いずれにせよ、大学に入り、クラスを共にしている皆に、順応性も記憶力も体力も満ちている年齢のときに楽しみながら様々な力をつけて、社会に羽ばたいていってほしいと願っています。

コメント

  1. yuko より:

    T.A様
    若い時代に、大きな器を身につけられたご子息様たちは、幸せです!
    知識の丸暗記ではなく、いかに学ぶかを学ぶことが大切な事だと、今大学で実感しています。
    全てが与えられるシステムの中で、自らの手で掴みとるハングリー精神が卒業後の武器になりますね。

  2. T.A より:

    こんにちは!お元気ですか?
    リベラルアーツという言葉につい反応してしまいました。我が家の息子たちは学園でまさしく「リバラルアーツ」を学びましたが、どこに行っても理解されず、仕方なく「教養学部」と言っているそうです。最近はやりの”インテリジェンス”というと、また違ってしまいますね。「人間とはなにか」「いかに生きるか」ということを哲学・神学から学ぶことから始まるのもいいですね。技術を詰め込むことは後からいくらでも詰め込めますが、詰め込む器を作るには、思った以上の根気が必要ですね。なるほどと考えさせられました。ありがとうございます。