愛の表現 ~オペラ特別演習IV~

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国立音大声楽科目会FD「オペラ特別演習IV」がオペラスタジオで行われました。
指揮:河原忠之先生、ピアノ:藤川志保先生、指導は、福井敬先生です。
河原先生は、国立音大ピアノ科の学生時代からたくさんの声楽の伴奏をしてこられ、大きな体いっぱいに「オペラ」が詰まっている音楽家です。ピアノのレッスンの他、コレペティトゥーア・コースの指導、そしてオペラの指揮、プロデュース、そしてIL DEVU(イル・デーヴ)のメンバーとしても八面六臂の活躍ぶり。オーケストラパートをシンフォニックに演奏される藤川志保先生のピアノをバックに歌う学生たちに、入りのタイミングなど細かに合図を出されていました。
今日の演目は、①《愛の妙薬》から ” ねえ、ちょっとアッディーナ ”、 ②《椿姫》から ” ある日、幸せにも ” 。
ネモリーノとアッディーナ、アルフレードとヴィオレッタ。二組の愛の表現が主な課題です。楽譜を読み、台本を読み込み、自分たちで工夫しながら演技をつけてきた学生たちに対し、福井先生の指導が行われました。
「腕つかんでしまってるけど・・・まだ恋人になっていないのに、それは、すでに恋人関係にある距離感でしょ?」
「今のは、機械のような動きだ。人間は、そんなに言葉どおりにすぐ動かない。行くよ、じゃぁ、行くよ、と言いつつ、なかなか行かないようなときがあるでしょう。」
「恋が芽生える瞬間、目を見つめあうことで何かが始まる。眼差しが大切。」
「そんな花の投げ方をするような性格の女の子なのか?」
「今の動きでは、顔が横を向いてしまって、声が客席に届かないだろう。」等々演技と歌唱指導は多岐にわたります。
歌、演技、動き、、、いくつものことをクリアしなければ登場人物がリアリティのある存在として浮かび上がってこないオペラの世界。歌手って本当に大変!
でも福井先生の指導により、それまでの個々のバラバラした動きが少しずつ一つにまとまり、ストーリーが生まれ、ドラマが成立していく様は、とても興味深いプロセスでした。
登場人物の性格描写、身振りや動きやタイミング、二人の関係と距離感、舞台という空間をどう使うのか、そして客席にどう見せるのか、、、。
これまで多くの一流のオペラの舞台に立ち、様々な演出家によって、主要な役どころを演じてこられた先生の言葉には説得力があります。
そして音楽と台本を深く読み解き、体現し、舞台として仕上げていく過程は、ピアノ曲の音楽解釈や表現とも無関係ではありません。たしかにピアノの楽譜には、役どころも台詞も状況説明も書いていませんが、音符には、性格があり、色があり、表情があり、ドラマがあるからです。どんな身振りなのか?どういう声音で発せられるのか?キャラクターは?楽譜を紐解きながら感じ、解釈し、響きとして体現し、「演奏」に繋げていってはじめて「音楽」になるのです。
ピアノの詩人、ショパンは、弟子たちに「テノール歌手からピアノの旋律の歌い方を学べ」と言っていたそうです。多くのベルカント唱法の聴取と感動からショパン自身のベルカント奏法が生まれたと言ってもよいでしょう。歌うようなピアノ、詩を語るような演奏、これらは「人間の声」という神様がおつくりになった楽器への愛情を通して会得できたものかもしれません。
いずれにしましても、超多忙なオペラ界のスーパー・スターからの直伝や、経験豊富なプリマ・ドンナのレッスンを日常的に受けることができ、実際のオペラの現場に近いオペラ・スタジオで自分の声を聴くことができ、学びの成果を披露する場をたびたび与えられている国立音大声楽科学生たちの優れた教育環境にあらためて感じ入った90分でした。

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