春を呼ぶコンサート

早めに衣替えをした友人が「あまりに寒くてまた冬のジャケットを引っ張り出したよ。」と嘆く気候不順の今日この頃。皆さま、体調管理はいかがでしょうか。

今日は、久しぶりに春らしい温かな晴天に恵まれたお釈迦様のお誕生日。
寛仁親王妃信子殿下をお迎えしての「春を呼ぶコンサート」(セレモア文化財団主催)がセレモアコンサートホール武蔵野で行われました。

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出演は、テノールの福井敬さん。使用ピアノは、ベーゼンドルファー(ヨハン・シュトラウスモデル)とプレイエル(1843年製)。

会場には、信子妃殿下のお印の「花桃」に合わせ、桃の花が飾られました。

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皇室の御方のお成りということで、警衛体制、合同リハーサル、任務担当・・・など通常のコンサートとは異なる念入りの準備が行われていましたが、演奏者側は、ご来場の皆様にお楽しみいただき精一杯演奏させていただくことに変わりありません。没後100年のドビュッシー「月の光」でコンサートを始めました。

福井さんは、先日の「音楽の友」人気投票でも日本人男性声楽家中、第1位を獲得。日本に希少のヘルデン・テノールとしてもまっしぐらに走り続けておられる歌手ですが、「実るほど頭を垂れる稲穂かな」の言葉どおり、温かく優しいお人柄でスタッフや同僚からも愛されているスターです。

今日も透明感のある美声で朗々と日本歌曲をご披露くださり、オペラ、ミュージカルの十八番を見事に演じてくださいました。歌い手さんにとって、歌う合間に話すことは声帯の都合からも集中力の面からも決して嬉しいことではないはずなのですが、誠実でユーモアあふれるトークで会場を盛り上げてくださり、ありがたい限りでした。

伴奏者として驚くのは、福井さんの”発声練習”を聞いたことがないことです。たいてい「まず発声!」と時間をかけてウォーミングアップされてからリハーサルに入る声楽家の方がほとんどなのですが、福井さんの場合「おはようございます」の挨拶のあとすぐスタンバイOK!

歌う体制が常に出来上がっていて自然に「歌」に入るということなのでしょうか。

モロボシ・ダンではなく、変身後の我らがヒーロー「ウルトラセブン」として?!会場入りされる福井さんです。

そういえば、ピアノの場合もスケールやアルペジオの基礎練習で始め、筋肉を柔らかくしてから曲の演奏に入るピアニストの方がたくさんおられます。私も15年ほど前まではそうだったのですが、今はすぐに曲を弾き始めています。

ウィーンのイエルク・デームス氏から「管楽器や弦楽器など自分で音程を作る場合は、プロになってからも基礎練習が欠かせないけれど、ピアノの音程は調律師が作っているのだから、スケールを延々と練習するような真似をするな!」ということでした。部屋で私がスケールを弾いていたら怒鳴りこみにいらしたことさえあります。そしてデームス氏のリート伴奏のレッスンは、とてつもなく厳しいものでした。フレージングの最後で少しでも硬い音を出したり、ドイツ語のアクセントと0.01秒でもタイミングがずれると突き飛ばされ?!罵倒されるのです。

ドイツ語が母国語でない私に対し、容赦も妥協もなく、泣いて逃げ出したくなることもしばしばでした。けれどデームス氏が伴奏したアメリングやディースカウの名盤を聴くとき、神業的伴奏には、ひれ伏すしかありません。

コンサートに話を戻しますと、中田喜直「悲しくなったときは」、武満徹「小さな空」のあと、プレイエルでショパンを演奏。プレイエル夫人マリに捧げられた夜想曲を静かに弾きました。博物館に直行するようなオリジナル楽器の音色ですが、演奏会のたびに調整をし、常にいい状態で楽しんでいただけるのは楽器にとっても素晴らしいこと。歴史的楽器の音色を引き継いでいくことも演奏家の使命の一つだと思っています。

アンコールの「落葉松」のあとは、信子妃殿下のお誕生日が明日!ということでHappy Birthday!を会場の皆様と一緒に歌いお祝い申し上げました。「日本ばら会」の名誉総裁もされておられる信子妃殿下に福井さんから薔薇の花束!

演奏後の歓談では、信子妃殿下がお料理のお話、オリンピックのメダリストたちとのお話などをしてくださいました。神戸にもたびたびお越しくださっていることに感謝申し上げ、記念撮影のあとお見送りさせていただきました。

打ち上げでは、皆でほっと一息。聴覚スイッチを味覚スイッチに切り替え、音楽家から健啖家へ変身!福井さんもモロボシ・ダンに戻って素敵なご家族のもとにシュワッチ!と飛んで帰られました。

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