追悼・イェルク・デームス先生

先日の神奈川アートホールでのリハーサルの日、指揮の伊藤翔さんがデームス先生の著書を譲ってくださいました。若き日のデームス先生がお書きになった貴重な本です。

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翌日、国立新美術館で開催されるコンサート「ベーゼンドルファーで巡るウィーン芸術の世界」の準備に入り、
入手困難なコルンゴルトの楽譜を伊藤さんから送っていただき、ウィーンに想いを馳せていた矢先、
イエルク・デームス先生の訃報が入りました。

4月16日ウィーンで天国に旅立たれとのことでした。

昨年の90歳バースディコンサートで、驚異的な演奏を聴かせてくださったばかり。
言葉もありませんでした。

常にファンタジーを演奏に求め、機械的なスケールやアルペジオの練習を忌み嫌っておられた先生。
「語れるようになった人間が、ABCの発音練習をして時間を無駄に使ってはならない!奏でる音はすべて音楽的でなければならない!」と仰り、自ら「言葉」のように、「詩」のように、「語る」ように演奏される方でした。

ディースカウやアメリングとの名盤でも知られるデームス先生ですが、心には、常に「詩」と「歌」があふれておられたのでしょう。

ウィーン三羽烏の一人、巨匠と称えられながら、常により深く、より美しく、と彫琢を続けておられました。

ザルツブルクでレッスンを受けたときにも「この指使いは10年前のものだ。そのあとこちらの青いペンで書いてあるほうが最新なのでそれを写せ!全てを学んで帰るように!」と厳しいレッスンが続きました。デームス先生直伝の指使いが書き込まれた楽譜は、私の指針になっています。

「音楽の道は険しい。しかし私は100歳まで弾くことを決めたよ。」とガーベルクの山荘で笑っておられた先生。
あと10年で100歳でしたのに。

先生のご冥福をお祈りしながら、来週27日(土)は、クリムト・モデルのベーゼンドルファーで、ウィーンの音楽を演奏させていただきます。

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