音楽家になるための3P

楽譜を整理していましたら、バッハの【フーガの技法】の間から高校時代の音楽史のプリントが出てきました。都立芸術高校時代の音楽史の先生、故 多田逸郎先生の授業の資料です。このバッハ最高傑作について、フーガの分析の仕方、資料の読み方、辞書の使い方など、初心者である高校生のために、懇切丁寧に手書きされています。今は、授業の資料も修士論文も学生のレポートもすべてコンピュータの時代ですから、手書きのプリントは、新鮮そのもの!四角い几帳面な文字から、当時の板書や先生のお声が蘇りました。

多田先生は、リコーダー奏者として日本の古楽の発展に尽くされた方です。3年間学ぶ音楽史の時間は、なんと「中世からバッハまで」。おそらく多田先生のお考えは、他の授業で古典派・ロマン派の歌曲の伴奏を学んだり、作曲の先生が現代曲について説いておられるのだから、「音楽史」の授業は、中世・バロックを!というお計らいだったのかもしれません。声楽の岡崎実俊先生、作曲の脇則之先生とともにガッチリとタグを組んで教育に取り組んでくださっていました。

ドイツ語のOウムラウトの発音「Oの口でEを言う」を何度も言わされたので、皆で「オエ先生」と失礼な仇名をつけたりしました。そんな我々劣等生に対して、
「音楽家になるための3P」を説かれた多田先生です。

pure(純粋な), punctual(時間に厳格な)までは記憶しているのですが、もう一つが何だったか?!
peaceful(平和な)、はたまたpowerful (力強く)か・・・いつかクラスメートで記憶力の良い人に聞いてみようと思います。

個性的な多田先生は、藤色をこよなく愛し、愛車は藤色のフォルクスワーゲン、事務用品も藤色、プリントも藤色、文字も藤色・・・。
この「フーガの技法」も藤色です。

日本チェンバロ界の第一人者、渡邊順生先生は「鎌倉の高校で音楽教諭をされておられた多田逸郎先生から多大な影響を受けて古楽の世界にのめり込んだ」とプロフィールに書いておられます。立派な教えが生きるかどうかは受け手次第、、、と恥じ入る今日この頃、【フーガの技法】をあらためて読み直しています。

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