マイ・バッハ

昨年はほとんど映画館に行かないで終わってしまいましたが、昨秋《マイ・バッハ》という映画を鑑賞。
ブラジルのピアニスト、ジョアン・カルロス・マルティンスさんの生涯を描いた映画です。彼の名前は、2016年のリオデジャネイロ・パラリンピックで国歌演奏を担ったピアニストとしてご記憶の方もいらっしゃるかもしれません。

窓から見えるサッカー少年達の遊ぶ姿を横目に、ひたすらピアノの練習に励むジョアン少年。驚くべき才能でめきめきと腕をあげピアニストとして活躍しますが、軽い気持ちで参加した公園でのサッカーで手を負傷。克服後、またもやハンガリーで暴漢に襲われ脳にも障害・・・。華やかな栄光と壮絶な苦悩を描いた映画です。

ストップウォッチを片手にメカニックの訓練をさせる先生、売春宿から直接オーケストラとのリハーサルに向かうなど、「ありえない!」と思えるシーンも出てくるのですが、一瞬の事故が、ピアニストの人生を暗転させるのは、まぎれもない真実でしょう。

ひと昔前のピアノ教育は、ひたすら反復させる根性論や、指と指の間を切る手術をして手を広げるなど、あってはならないような方法まで横行していました。最近では、脳科学、スポーツ医学、解剖学的な見地からの研究が進み、効率よくメカニックを磨き、驚異的なテクニックを身につけた若きピアニストが多く現れるようになりました。

その一方で、不幸な事故によって負傷したり、難病によって筋肉の動きに支障が出たりする若きピアノ学生に出会うことがあります。
折しも今月から卒業試験、学年末試験のシーズンが始まりました。200人を超えるそれぞれの学生の事情すべてを知ることは不可能ですが、身体的、メンタル的、様々なハードルを越える勇気とともに舞台に立つ学生も少なくないように思えます。

訓練を積む、練習を重ねる、準備に励む、試験に備える・・・そんな中で若い学生のみなさんが、心身ともに健康を保ってほしい、自然で無理のない方法でピアノ人生を歩んでほしい、、、とピアノ弾きの仲間として切に思う今日この頃です。

コメント