初老耽美派よろめき美術鑑賞術

2020年のオリンピックイヤー。元気に始まった令和2年の春が、新型コロナウィルスの襲来に見舞われる状況になるとは誰が予想したことでしょう。
様々な不安や不便を抱える方、闘病の際中の方、看病の大変な生活を送られておられる方もいらっしゃることと思います。お見舞い申し上げますとともに、一日も早い収束を願うばかりです。

私自身も、中止が決まった演奏会、中止かどうか微妙な演奏会など、未定の予定が多い3月になってしまいました。
閉鎖中の美術館や映画館もあり、寂しい気持ちがしています。

美術館と言えば、昨年暮れに出版された「初老耽美派よろめき美術鑑賞術」(毎日新聞出版)は、美術界を牽引してこられたお三方による楽しい美術談義です。三菱一号館美術館の高橋明也館長、東京ステーションギャラリーの冨田章館長、日本美術を専門とされる山下裕二氏3人による鼎談。「美術鑑賞に正解はない。この本を役立てようなどとゆめゆめ思われませんように。」という前書きで始まる本書。

老眼の人にも優しい?!大きな字で、面白く楽しく、というモットーのもとに美術を案内するお三方。真面目に静かに「鑑賞する」という日本の美術館の堅苦しさや敷居の高さを払拭しよう!と美術館をゆるーく長く楽しむ極意が満載です。理屈をこねるのではなく「大切なことは” 好きだ”と感じる経験」。これは音楽鑑賞にも共通なことのように思えます。

絵を展示する高さのこと、絵画購入のエピソード、傘を忘れて鍵を持ち帰る人への切なるお願いなど美術館長としての本音トークを交えての興味深いコラムなども挿入され、各美術館の顔とも言える「常設展」の親切な付録付き。
それぞれ異なる専門分野で研究に没頭され、学術的なご本を出版されてきたお三方が、還暦を過ぎ「遊び」の境地で語る一言一言には、含蓄と味わいが溢れ、美術館に行くのがさらに楽しくなる1冊でした。

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